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松沢哲郎『文化を伝えるチンパンジー』(中学2年生の国語教科書・光村図書) オンライン図録

このページでは、光村図書中学2年生の国語教科書に掲載された『文化を伝えるチンパンジー(筆者:松沢哲郎)』を特集いたします。 教科書を読んで興味をもたれた方向けに、もっと野生チンパンジーの世界に触れていただければと思い、関連する写真・映像をまとめました。
チンパンジーの石器使用アブラヤシのナッツ割り
  ボッソウのチンパンジーは、ふたつの石をそれぞれハンマーと台にして使い、アブラヤシのナッツ(種)の殻を叩き割って中の核を取り出して食べます。

写真をクリックすると拡大してご覧いただけます
写真左から
1 ハンマーに使う石と台に使う石を選びます。
2 ナッツを台石の上に置きました。ハンマーを持ち、台石の上に置いたナッツめがけて振り下ろします。
3 ナッツの殻はとても硬いので1回で割れないことも多いです、もう1回振り下ろします。
4 ナッツが割れました。ナッツの中身の核を取り出して食べます。

アブラヤシのナッツの殻は非常に硬いので、石を使う以外の、投げつける・歯で割るといった方法でナッツを割るのは非常に困難です。 また、ハンマー石・台石・ナッツの3つを上手く組み合わせるのが難しいため、子どものチンパンジーが石器を使ってナッツを割ることができるようになるまでには多くの時間がかかります。 子どもは母親や周りの大人たちをじっと見て徐々にナッツ割りの方法を習得していき、3~5才くらいでようやく自分でナッツを割ることができるようになります。

ボッソウの森周辺のコミュニティ
  ボッソウ周辺のチンパンジーがいる森
ボッソウ周辺のチンパンジーがいる森  写真をクリックすると地図(Google Map)がご覧いただけます
ボッソウの森からやや離れたところに、セリンバラ、イヤレ、ディエケというチンパンジーが住んでいる森があります。 チンパンジーの女性は9~11歳になると生まれた群れを出て、別の群れに移籍します。そうして近い親族同士での子どもができるのを防いでいるのですが、 ボッソウの森はまわりをサバンナと人間が作った畑に囲まれて孤立しているため、ボッソウに住んでいるチンパンジーが他の森に住んでいるチンパンジーと行き来をするのは、きわめて困難です。 過去20年間にわたって、群れを出て行った若者はいても、外からやってきたチンパンジーはいません。
クーラのナッツボッソウの野外実験場に、なじみのないナッツを置いてみたところ...
  1993年、松沢先生たちは野外実験場にボッソウ周辺ではとれるもののボッソウではとれないクーラのナッツ(実)を置いてみました。 ボッソウにはクーラはないので、ボッソウのチンパンジーはクーラを知らないはずです。
アブラヤシの種同様クーラも、硬い種のなかにある核を食べることができます。 さて、ボッソウのチンパンジーはクーラの実をどうするでしょうか?
地名 / ナッツ名 アブラヤシ クーラ パンダ
ボッソウ 割る ない ない
セリンバラ あるけれど割らない ない ない
イヤレ 割る 割る あるけれど割らない
ディエケ ない 割る 割る

ボッソウのチンパンジーは、ほぼ全員が匂いをかいでかじってみるものの捨ててしまいました。ただ、一人だけ違う反応を示した女性がいました....
そして、文化が伝わっていった
 
チンパンジーの名前/回数 実験1日目 2日目 3日目 4日目
(オトナ・女性) ナッツを割る ナッツを割る ナッツを割る ナッツを割る
Tua (オトナ・男性) 探索 無視 無視 無視
Foaf (オトナ・男性) 無視 無視 無視 無視
Kai (オトナ・女性) 探索 探索 無視 無視
Fana (オトナ・女性) 無視 探索 無視 無視
Nina (オトナ・女性) 無視 無視 無視 無視
Jire (オトナ・女性) 無視 探索 無視 無視
Velu (オトナ・女性) 無視 無視 無視 無視
Pama (オトナ・女性) 無視 無視 無視 無視
Na (コドモ・男性) 無視 探索 探索 無視
Vui (コドモ・男性) 無視 無視 無視 ナッツを割る
Yunro (コドモ・女性) 無視 無視 探索 探索
Pili (コドモ・女性) 無視 無視 無視 ナッツを割る
Yoro (アカンボウ・男性) 無視 無視 無視 無視
Poni (アカンボウ・男性) 無視 無視 無視 無視
Vuavua (アカンボウ・男性) 無視 無視 無視 無視
Fotayu (アカンボウ・男性) 無視 無視 無視 無視
※アカンボウたちは、アブラヤシのナッツ割りがまだできません、クーラのナッツ割りも同様にできないと考えられます。
「ヨ」だけが、ためらいも見せずクーラのナッツを叩き割りました。彼女は30代半ばなのでボッソウ生まれではなくよそから移籍してきたと考えられます、おそらくボッソウに来る前はクーラのナッツ割りをする群れにいたのでしょう。

野外実験場にクーラのナッツを用意する実験を続けていくと、そのうち、クーラ・ナッツ割りをしているヨを観察する子どもがでてきました。 彼/彼女らはヨの様子をじっと見つめ(ぜひ動画をご覧ください)、やがて自分たちでもクーラのナッツを割るようになりました。 ヨの知識・経験が次世代に受け継がれた、新しい文化が伝わった瞬間でした。
そのほかの道具使用
  ボッソウのチンパンジーは、ナッツ割りのほかにもさまざまな道具を使うことが知られています。
水藻すくい

1995年に新たな道具使用行動がボッソウのチンパンジーで観察されました。 チンパンジーが枝を利用して池の表面に浮いている水藻をすくう、「水藻すくい」です。 左の動画では、藻をすくいやすくするためにチンパンジーが棒を加工する様子をご覧いただけます。

葉っぱの水飲み

大きな木の幹に穴が開いていて、この穴の中に雨水がたまっています。穴は深いので道具なしでは水を飲むことはできません。
チンパンジーは穴の中の水を飲むのに葉っぱを利用します。

アリの浸し釣り

チンパンジーはサファリアリをつかまえるのに棒を利用します。
サファリアリは下顎の力がとても強いので、かまれると大変痛いです。
棒を利用することで、アリにかまれる危険を減らし、より多くのアリを食べることができます。

おまけ「ヨ」ってなぁに?ヨの名前の由来
 
ヨの名前の由来
ボッソウのチンパンジーたちには、現地のマノン語での名前がつけられています。「」は、マノン語での「ヨップル(ヤシ酒)」から命名されました。
葉っぱを使ってヨップル(ヤシ酒)を飲むチンパンジー
ボッソウの村人はヤシの木の樹液でヨップルをつくります。

左の動画は、ヨップルの容器をチンパンジーが見つけ、葉っぱを使ってヨップルを飲んでいるところを撮影したものです。
番外編教科書をアユムに見せてみました(2006年05月、アユム6歳の時。教科書の装丁は当時のものです。)
 
左写真:しげしげと見つめた後、自分の幼い頃の写真を指差すアユム
中央写真:ボッソウのチンパンジーがナッツ割りをする写真を指差すアユム
右写真:教科書を囲んで、筆者の松沢先生・アイ・アユム親子の3人で記念撮影

アユムのプロフィールページはこちら
発展編参考文献。もっと詳しく知りたい方へ
  チンパンジーのナッツ割りについて


ボッソウのチンパンジーについて


チンパンジー、チンパンジーの研究について

当ページの作成にあたっては、以下の文献を参考にさせていただきました。