おかあさんになったアイ


おかあさんになったアイ チンパンジーの親子と文化 おかあさんになったアイ
2006年に文庫版となって再登場
おかあさんになったアイ チンパンジーの親子と文化
松沢哲郎 著
講談社学術文庫
おかあさんになったアイ チンパンジーの親子と文化

2001年に刊行された「おかあさんになったアイ」(下述)の加筆訂正版です。
出版年: 2006年10月10日
出版社: 講談社
ISBN: 978-4-06-159786-0

アイとアユムの最新情報を加筆
チンパンジーの育児、教育、文化

本の帯より


本書裏表紙より
漢字や数字を理解するチンパンジーとして名高いアイ。彼女が息子アユムを産んで6年が経過した。はたして子育ては順調に進んだのか。また、親が獲得した知識や技能は、世代を超えて息子に伝えられるのか。アイ母子を軸に、野生下における観察・研究をも踏まえ、チンパンジーの親子関係、教育、文化の諸相を探る。「その後のアユム」最新情報を加筆。

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2001年初出
おかあさんになったアイ
松沢哲郎 著
おかあさんになったアイ

出版年: 2001年04月24日
出版社: 講談社
ISBN: 978-4-06-154254-9

第48回(2002年度)青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出されました。

母から子へ、愛とともに何が伝わるのか?

本の帯より


著者より
2000年4月にアイがアユムを産みました。6月にはクロエが、8月にはパンが女の子を産みました。新聞やテレビでも報道されたので、多くの方が「アイちゃんはおかあさんになったのね、おめでとう」などと声をかけてくださいます。お便りもたくさんいただきました。この本を書いた理由の一つは、そうした、チンパンジーの母と子のことを心にとめていてくださる方々に、ご報告を兼ねてお礼を申し上げたかったからです。
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目次
第一章  アユム誕生からの一年
  • アイがアユムを産んだ
  • 計画的な子供作り
  • 死産を乗り越えて
  • あかんぼうの反射
  • 子育てができない
  • 二例に一例の育児拒否
  • 本能だけでは育児はできない
  • 子育てを教える
  • アイは子どもを育てるか?
  • 隠れていた母性
  • 三者三様の母親ぶり
  • あわや育児拒否-クロエの出産
  • 添い寝をする母親-パンの出産
  • 引き出される母性
  • 子育ても学習が必要
  • 子どもの働きかけが大切
  • 抱きしめる
  • 片時も放さない
  • 母と子だけの時間
  • 見つめあう
  • 目を見ることの意味
  • 親しみを込めて
  • ほほ笑む
  • 新生児の微笑と模倣
  • 生後三ヶ月目の劇的な変化
  • まなざし、ほほ笑み、声かけ
  • ヒトのお母さんは抱きしめない
  • チンパンジーも声を出す
  • 声に対する応答
  • ヒトのことばを聞き取るボノボ
  • アイも話しことばを理解する
  • ボノボの不思議な発声行動
  • 育児というコミュニケーション
  • 母子はたがいに働きかける
  • 生育環境が違いを生む
  • アユムの「事件」-コンピューターの課題をやりとげる
子育てを教える
とにかくできることなら何でもやってみようという気持ちで、妊娠期間中に子育てを教えるということをおこないました。
出産
出産にまつわるエピソードを見てきて、強く思うことがあります。セックスをして、子どもを産み、それを抱いてお乳を与えるという、本当に種族の維持の根幹にかかわるような行動が、けっしてゲノム(遺伝子)だけに組み込まれているわけではなく、実際に何らかの学習が必要だということです。
見つめあう母子
新発見:新生児微笑
母子を二十四時間、夜間も観察して、はっきりと例証されたのが、チンパンジーにも「新生児微笑」があるということです。

アユムの新生児微笑

パルの新生児微笑
チンパンジーの音声レパートリー

アイとアユムが松沢先生のパントフートに反応するところ

ボッソウのチンパンジーによるパントフート
アユムの「事件」-コンピューターの課題をやりとげる

アユムがはじめてコンピューターの問題を解き、正解して100円玉を手に入れることができました。アユムが解いた手順は以下のとおりです。
1)コンピューター画面下の白丸に触れると、問題が呈示されます。アユムは、このボタンを左手で押しました。すると、「茶」という文字があらわれました。
2)この文字を触ると、画面上のランダムな場所に2つの色が呈示されます。アユムが「茶」の文字を押すと、右上に茶色の四角とピンク色の四角があらわれました。
3)ここで茶色の四角を選ぶと正解です。アユムは手を伸ばして茶色の四角を選ぼうとしますが、手が届きません。そこで、踏ん張って背伸びして、さらに手をぐっと伸ばし、やっと茶色の四角に触れることができました。
4)正解音がなって、100円玉が落ちてきました。この100円玉を自動販売機に入れるとレーズンなどのおやつをもらうことができますが、それはアユムにとってとても難しい作業です。アユムは100円玉を大事そうに手に取り、アイが勉強を終わるまで、その100円玉をはなしませんでした。

第ニ章  野生のチンパンジーの暮らし
  • チンパンジーは「進化の隣人」
  • アフリカの自然の中で
  • ヒトとチンパンジーはいつ別れたのか?
  • ヒトは特別な生き物ではない
  • チンパンジーの一生
  • 母親をひとり占めする五年間
  • 男女の違いが現れる
  • 男性チンパンジーの生活
  • およそ50年の生涯
  • 血のつながりとコミュニティー
  • 二重になった群れの構造
  • 女性は群れを出ていく
  • なぜ、殺すのか?
  • 文化の発見
  • 地域ごとに異なる道具を使う
  • ボッソウで使われる多彩な道具
  • 知識や技術が伝わる
  • 文化が生まれる過程
  • そもそも文化とは何か?
  • 近隣のコミュニティーを比較する
  • ナッツ割りの野外実験
  • チンパンジーの教育
  • 親の手本を見習う
  • 子どもからの働きかけ
  • 学習には適切な時期がある
  • 種割りを身につけるまで
  • 石器を使えないのは、なぜ?
  • 文化の運び手は女性
写真をクリックすると拡大してご覧いただけます

第三章  アイ・プロジェクトからの展開
  • チンパンジーから見た世界
  • なぜ、ことばを教えるのか?
  • さまざまな形の「ことば」
  • 色の世界を探る
  • ほんとうにヒトのことばがわかるのか?
  • 「カラー・ストループ効果」による証明
  • 二つの情報が競合する
  • 七という魔法の数
  • 瞬時に数字を記憶する
  • 大学院生より優秀?
  • 他者の心を理解する
  • 残された多くの問い
  • 文法的な構造を理解できるか?
  • 社会的な知性と「心の理論」
  • 自分と他人は考えていることが違う
  • チンパンジーに「心の理論」はあるか?
  • 逆に、チンパンジーの言葉を学ぶ
  • パラダイムの変換
  • コミュニティーをまるごとシュミレーションする
色の認識課題
画面にあらわれた色つきの四角を見て、その色に対応した漢字を選べば正解です、動画後半ではその逆で、色名の漢字を見てその漢字に対応した色を選ぶことが求められています。
カラー・ストループ効果
それぞれの字が何色で書かれているかを答えてください。
写真上のように文字の色と意味が一致している場合と比べると、写真下のように文字の色と意味が異なる場合は難しくなります。
数の認識課題
画面の数字を、小さい順に全て押せば正解です。数字がマスクされても、思い出して答えることができます。後半はスローモーションです。

第四章  世代を超えて伝わるもの
  • チンパンジーの歴史学
  • 新しい研究の地平線へ
  • 森の詩人-ジェーン・グドールさん
  • 長い時間の中での変化を追う
  • 世代を超えて引き継がれるもの
  • コミュニティーと文化をつくる
  • 文化はコミュニティーの中で引き継がれていく
  • 物理的な環境を変えていく
  • 「動物福祉」と「環境エンリッチメント」
  • アフリカのコミュニティーを再現する
  • 母親チンパンジーの協力を得て
  • 子どもの知性の発達を調べる
  • 知識や技術はどのように引き継がれてるのか?
  • 人間の由来と将来
  • チンパンジーを通して人間を見る
  • 二分された「知性」
  • 知性は「三項関係」の中ではぐくまれる
  • 人と人のあいだにこそ
母親チンパンジーの協力を得て
長い時間をかけてヒトとのあいだに絆をもったチンパンジーであれば、おかあさんの協力を得ることができます。 こうして、チンパンジーのおかあさんが育てるチンパンジーの子どものの知性を、ちょうどヒトのおかあさんが育てているヒトの子どもと同じように調べることができるようになりました。



アフリカのコミュニティーをまるごと再現する
知性の研究においては社会的な文脈というものが重要だと思うようになりました。個人というものの中に成立する思考や認識を調べれば調べるほど、個人を取り巻く外側の環境や人と人との社会的な関係といったものに目を向けざるをえなくなってきました。それがなくては、個人の中の思考や認識なんてなりたたない、ということにようやく理解が進んだのです。

左写真:高さ15メートルの塔がそびえる霊長類研究所の屋外運動場
右写真: 心の先端研究のための連携拠点(WISH: Web for the Integrated Studies of the Human Mindの略)構築事業により、2011年度に完成した縦横20メートル高さ15メートルの比較認知科学実験用ケージ2棟

(2001年刊行版のみ収録)終章  チンパンジーとわたしー質問に答えて
  • アイとのコミュニケーション
  • チンパンジーの考えがわかる?
  • チンパンジーの色の世界を知るために
  • ヒトのことばとチンパンジーのことば
  • チンパンジーの笑い顔
  • ほんとうに笑っているの?
  • 遊ぶときの表情はみな同じ
  • すぐれた動物学者になるには
  • 研究者と動物との関係は?
  • だんだん動物に似てくる
  • 子育ては経験がものをいう
  • なぜ子育てができないの?
  • 子育ての中で暮らす野生チンパンジー
  • 野生チンパンジーに迫る危機
  • チンパンジーの暮らしをどう守るか?
  • 森林の伐採と「ブッシュ・ミート・トレード」
  • 無理なく勉強するための工夫
  • アイは何に座っているの?
  • 自主性を重んじる
  • おかあさんはえらい!
  • チンパンジーと人間をくらべると
  • 母は背中で手本を見せる
  • 「できっこない」とおもったらそれまで
  • 障害をもつ子どもにどう接したらよいか?
  • 障害のラベルを貼らないこと
  • 何を目標にするのか?

(2006年刊行版のみ収録)第5章  あかんぼうから子どもへ
  • ミレニアム・プロジェクトのその後
  • 五歳ごろにようやく離乳
  • ピコの誕生
  • 親子関係と仲間関係
  • 子育ての進化
  • 子育てのネットワーク
  • チンパンジーの知性の発達
  • 食物の分配
  • 石器使用
  • ハチミツ釣りとその発達
  • お金を手に入れ、自動販売機で使う
  • 「教えない教育」と「見習う学習」
  • 数字を記憶する能力
  • 進化における「喪失のシナリオ」
  • 「緑の回廊」プロジェクト
  • 野生チンパンジーの大量死
  • 緑の回廊をつくる