松沢哲郎

白神山地のニホンザル

2017年10月15日付愛媛新聞(掲載許可番号:G20180201-03549)

青森県の下北半島を巡り、世界自然遺産の白神山地を訪れた。縄文人の暮らしから核燃料再処理工場までを追い、野生ニホンザルの暮らしも垣間見ることができた。

青森空港を起点にした4泊5日の旅である。京都造形芸術大の文明哲学研究所の研修旅行で、学長の尾池和夫先生から、京大の大学院生・学部学生まで含めて老若男女14人。まず空港近くの三内丸山遺跡で5500~4千年前の縄文時代の暮らしを見た。現場でみる竪穴住居はけっこう複雑な構造をしていた。想像していた掘っ立て小屋からはほど遠い。

次に、六ケ所村の核燃料再処理工場に行った。ウラン鉱石を見た。核燃料棒、それを冷やすプール、使用済み燃料棒の裁断過程、核のごみの集積場を見た。文明哲学研究所は原発と核開発には反対の立場だが、まずは現地を見て実感を伴った議論をしたいからだ。

折しも今年のノーベル平和賞が、核兵器禁止条約を推進した国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に贈呈される。被爆国である日本がその条約に加盟していないのは不当だと思う。一方で、六ケ所村の人口は約1万500人で、再処理工場が雇用するのは約5千人だ。暮らしをどうするのか。政治的に明確な決断をして、解決に向けた良い知恵を出し合う。原発や核の問題は、決断と知恵の問題だと思う。

2日目は下北半島の脇野沢にすむ北限のサルだ。ちらっと姿を見ることができた。青森ヒバとブナの混交した森の中を2時間ほど歩き回って探した。清らかな空気の中での森林浴だ。3日目は恐山を訪れた。硫黄の吹き出す荒涼とした風景に、どこか明るい雰囲気が漂う。緑の山に囲まれているせいかもしれない。そこから白神山地に移動した。

暗門の滝を見た。8月11日の「山の日」に今井通子さんにお会いした。マッターホルン北壁の登頂などで著名な方だ。「白神山地のお薦めは?」と尋ねたら、「一つだけなら暗門の滝」という答えだった。ただしヘルメットの装備と渡渉する技術が必要だ。私をはじめ山岳部経験者3人を含めた5人で往復した。道をさらに整備して安全を整え、「ガイドつき」を必須条件に入域させるのが良いだろう。

車で津軽峠まで往復して樹齢400年のブナの巨木を見た帰り道、野生ニホンザルの群れに出会った。道から見下ろす形になって観察しやすい。ブナやトチやホオの落葉広葉樹林の中を小川が流れている。平たんな開けた場所で、一群が川を渡る様子を詳しく見ることができた。ビデオに収めて見返したが、川を渡るのに五つの方法があることに気が付いた。

群れの大人の男性は、岩から岩へと力任せに豪快にジャンプした。大人の女性は渡渉点を選んで浅瀬を石伝いにじゃぶじゃぶと歩いた。倒木を見つけて向こう岸に渡るものもいる。赤ん坊は母親の背中に乗って渡る。そうした中で、子どもが木を伝って登り、枝をたわめて対岸にまでしならせ、ひょいと飛び移るのを見た。なんという工夫だろう!

川を渡ると決める。さて、どうすれば渡れるかを考える。すると、さまざまな解決法が浮かび上がってくる。難しい問題に向き合ったときにどうしたら良いか。決断と知恵だよ、とサルに教えられた気がした。