チンパンジー・アイ

アイ

アイは、愛知県犬山市の 京都大学霊長類研究所 京都大学霊長類研究所でくらしている 女性のチンパンジーです。 1976年西アフリカで生まれ、1歳のころから、チンパンジーの知性に関する研究プロジェクトで、 松沢哲郎先生の研究パートナーをつとめています。 2000年 とのあいだに、息子 を出産しました。 努力家で根気強く何事もあきらめないのが、彼女のすごいところ。 体重55kg(2013年計測時。変動があります)、視力は1.5、愛称はアイちゃん

アイの履歴書
0
1976年10月ころ
西アフリカで生まれる

京都大学霊長類研究所へやってきた1977年11月時点で、ちょうど乳歯が生えそろっていたため、約1歳と推定されました。よって、その1年前の1976年あたりに生まれたのだろうと考えられています。

チンパンジーは、 西チンパンジー(Pan troglodytes verus) ・東チンパンジー(Pan troglodytes schweinfurthii) ・中央チンパンジー(Pan troglodytes troglodytes) ・ナイジェリアチンパンジー(Pan troglodytes ellioti)の4種に亜種として区別されます。 アイは、のちの遺伝学的検査で西チンパンジーであることが分かっているため、ギニア湾北部に広がる熱帯林で生まれたと推定されます。


1
1977年11月10日
京都大学霊長類研究所に来る

レイコの次、2人目のチンパンジーとして霊長類研究所に来ました。 劇画「愛と誠」の早乙女愛にちなんで「アイ」と命名されました。 その後1978年1月に、同年代のアキラマリが霊長類研究所に来ています。


1歳半
1978年4月15日
コンピュータのキイボードに初めて指を触れる

アキラ・マリとともに、図形文字の学習を開始しました。「手袋」「ボウル」「積み木」など、チンパンジーの身の回りにある8つの品物の名前を57日で覚えました。


1981年、チンパンジーのアイ 1981年4月24日撮影
1981年、コンピュータ課題にとりくむアイ 1981年7月10日撮影
物の名前と色を図形文字でこたえるアイ 物の名前と色を図形文字でこたえるアイ

5
1982年
「ことばをおぼえたチンパンジー」として学界にデビュー

アイについて書かれた最初の英語の論文がでました。 チンパンジーが図形文字を使って品物の名前と色をこたえることができる、と証明されました。

論文: T. Asano, T. Kojima, T. Matsuzawa, K. Kubota, K. Murofushi. (1982) Object and color naming in chimpanzees (Pan troglodytes). Proceedings of the Japan Academy, 58, pp. 118–122

課題につかった品物

7
1985年12月1日
ことばをおぼえたチンパンジー」(福音館書店)が出版される

チンパンジーそしてアイについての話が、絵本になりました。これが後に、光村図書が出している小学三年生の国語の教科書に載りました。

ことばをおぼえたチンパンジー 表紙 ことばをおぼえたチンパンジー 表紙
ことばをおぼえたチンパンジーを読んで お話を読んだ子供たちから、たくさんの手紙をもらいました、ありがとう!

7
1985年
色覚について英語論文が出る

赤・橙・黄・緑・青・紫・桃・茶・白・灰・黒の11色の名前をおぼえたアイに、色々な色相・明度・彩度をした色紙215枚を一枚ずつ見せて、「この色紙は何色か」を答えてもらいました。 チンパンジーと人間は、同じように色が見えているとわかりました。
Matsuzawa T(1985) Colour naming and classification in a chimpanzee (Pan troglodytes). Journal of Human Evolution, Volume 14, Issue 3, Pages 283–291


7
1985年

世界で初めてアラビア数字で数を表現する

1から6までの数字を使って数の概念を表すこと、また、品物の名前・色・数を図形文字や数字で表現できることが、証明されました。
世界で特に権威のある学術雑誌「ネイチャー」誌に論文が載り、著名人になりました。
Matsuzawa T(1985) Use of numbers by a chimpanzee.Nature, 315, 57– 59


左画面に出てきた白い点の数を、右画面に出てきた数字に触れて答えているアイ 左画面に出てきた白い点の数を、右画面に出てきた数字に触れて答えているアイ(1990年12月撮影)
チンパンジー・アイが、アルファベットでチンパンジーの名前を表現する アルファベットでチンパンジーの名前を表現する

13
1989年10月3日
チンパンジー逃走

チンパンジーのアイとアキラ、オランウータンのドゥドゥが居室から逃げ出す事件がおこりました。 チンパンジーが鍵を使って錠前をあけたようだ、というニュースに世間が驚きました。 その後、実況検分が非公開でおこなわれ、アイは数秒のうちに鍵を開けられることが実証されました。 翌年、警察は「チンパンジーが鍵を開ける危険性の予見はできなかった」として不処分を決定。警察の捜査でも、アイが鍵を開けたものと断定されました。


13
1990年
アルファベットを識別

アルファベット26文字をおぼえ、 人やチンパンジーの名前を表現するようになりました(たとえば、アキラの顔写真を見たらAを選んでマリの顔写真を見たらMを選びます)。 また、3メートル離れた先に表示されたアルファベット文字を答えてもらい、徐々に文字の大きさを小さくしていき視力を検査したことで、 アイの視力は両眼で1.5だということがわかりました。
Matsuzawa T(1990) Form perception and visual acuity in a chimpanzee. Folia Primatologica, 55, 24–32


13
1990年
研究書「チンパンジーから見た世界」(東大出版会)が出版される

「アイ・プロジェクト」という名称が正式に使われ始めました。



チンパンジー・アイとジェーン・グドール博士 課題をとくアイ。後ろで観察しているのはジェーン・グドール博士

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1995年
類人猿行動実験研究棟完成

アイたち10人(当時)のチンパンジーに、新しい家が建ちました。 京都大学霊長類研究所に、チンパンジー研究の新しい拠点・類人猿行動実験研究棟(通称:新棟・英名:Ape Research Annex)が完成したのです。 屋外運動場には、高さ8メートルのタワーおよびドームが登場し、小川が流れ木が植えられました。 運動場と地下通路でつながった屋内には、タッチパネルがついた部屋や、チンパンジーとヒトが直接ふれあうことのできる「プレイルーム」が整備されました。


18
1995年
チンパンジーはちんぱんじん」(岩波ジュニア新書)が出版される


ヒト科には、「ヒト科ヒト属(ホモ属)」「ヒト科チンパンジー属(パン属)」「ヒト科ゴリラ属」「ヒト科オランウータン属」の四属がいます。 生物学上でも日本の法律上でも、チンパンジーはヒト科です。 チンパンジーは"ちんぱんじん"、男性女性と呼び1人2人と数えるのがしっくりくる、そんな実感が題名にもこめられています。


21
1996年
マリの帰還

チンパンジーのマリが、日本モンキーセンターから約10年ぶりに戻ってきました。 アイとマリは、1歳のころから10年近く共に育ってきました。久々に対面したときも、互いをよく憶えていました。


20
1997年
文部科学省科学研究費補助金・特別推進研究に採択される

以後6期連続で採択されています。 これによって、アイを母親としアキラを父親とする人工授精計画が始動しました。


21
1998年7月
トリプルタワーが登場

屋外運動場のタワーが15メートルに拡張され、屋内のプレイルームがひとつ整備されました。


21
1998年7月29日未明
アキラとのあいだの人工授精児アトム生まれる

満期の死産でした。


23
2000年4月24日

おかあさんになる

アイが男の子を産んで母親になりました。 男の子の名前は「アユム」、 母親と同じイニシャルのAで始まり、健やかにまっすぐ歩んでほしいという素朴な期待が込められています。 アイの子育てのようすは、このホームページの写真集や、書籍「おかあさんになったアイ」などで紹介されています。

アユムを抱く、母チンパンジー・アイ

23
2000年

「ネイチャー」に論文が載る

マスキングという記憶課題で人間並みの能力を示しました。

論文:

動画:Numerical memory span in a chimpanzee

0から9までのアラビア数字を小さい順に選ぶことができるようになったアイに、数字を記憶する課題をといてもらいました。 まず最初は5つの数字がコンピュータ画面に現れています、その数字のなかでの一番小さい数字を選ぶと、とたんに残りの4つ全部が白い四角へとマスキングされ数字が見えなくなります。 それでもアイは、数字のあった場所を小さい順にさわっていきます。


24
2001年
英文書籍「人間の認知と行動の霊長類的基盤 (原題: Primate Origins of Human Cognition and Behavior)」がシュプリンガー社から出版される

アイ・プロジェクトの英文の最初のまとまった書籍として研究成果が広く世に出ました。


25
2001年11月
お金を道具として使う
トークン(お金)は、持ち運びが可能で、長く貯めておいても価値が変わらず、いろいろなものと交換できます。 アイたちチンパンジーが、トークンを得るために勉強すること、トークンを自発的に貯めること、トークンを自動販売機で使って好きな食べ物と交換することが、報告されました。
29
2004年
あくびは伝染する

アイに、ほかのチンパンジーがあくびをしているシーンを撮影したビデオを見せたところ、アイがあくびをする回数がふえました。 チンパンジーも人間でも、他人があくびをするのを見ると、つられてあくびをしがちだ、ということがわかりました。
Anderson JR., Myowa-Yamakoshi M, Matsuzawa T(20004) Contagious yawning in chimpanzees Proc Biol Sci., 271(Suppl 6): S468-S470


29
2006年
英文書籍「チンパンジーの認知発達 (原題: Cognitive Development in Chimpanzees)」がシュプリンガー社から出版される

アイとアユムなど母親保育による子どもの心の発達研究が世に出ました。


31
2006年
「カレントバイオロジー」に論文が載る

アイとアユムたち3組の親子と人間の大人を比較して,アユムたちチンパンジーの子どもには優れた作業記憶があることがわかりました。
Inoue S, Matsuzawa T(2007)Working memory of numerals in chimpanzees. Current Biology, Volume 17, Issue 23, R1004–R1005


34
2011年
最先端研究基盤事業に採択され,心の先端研究WISH事業による大型ケージが導入された

飼育環境が格段に改善されました。


35
2012年
アユムを父親とする次世代育成プログラムが始まる

「おばあさんになったアイ」誕生を目指して、努力を続けています。