Credit: Primate Research Institute, Kyoto University
図: 同調実験にとりくむアイ

同調行動でつながる私たち

「アルプス一万尺小槍の上でアルペン踊りをさあ踊りましょ.....」二人一組になって一緒に手遊びをしながら歌う「アルプス一万尺」。小さいころに遊んだおぼえがある方も多いのではないだろうか。リズムに合わせ,向かいあわせになった相手と同じように動く。それを何度も繰り返す。それだけなのだがとても楽しい。声を合わせ,動きを合わせることで相手と仲良くなることを幼いころから経験する。

食べ物を収穫した喜びをわかちあう。一緒になって士気を高めあう。みんなで何かを強く信じる。そうしたときに,大勢で音楽に合わせて踊り,歌う。実際に,相手と行動を同期させると,親近感が増したり,相手への協力が高まったりするという研究報告がある。また,親しい友達や好意を抱く人には,無意識に会話や身振りのリズムを合わせてしまうということも知られている。

こうした能力をわたしたち人間はどうして手に入れたのだろうか。チンパンジーも,さまざまな音や身振りで仲間とコミュニケーションをとりあう。たとえば,誰かと出会ったときには「オッオッオッ」というパント・グラントと言われる声をだして挨拶をする。自分の存在を周りに誇示するときには木の幹などを叩いて,太鼓のような大きな音を出す。ドラミングと呼ばれる行動だ。では彼らは,人聞が歌ったり踊ったりするように,何かのリズムに同調するのだろうか。

チンパンジーは「リズムに乗る」ことができるか

音のリズムに乗るのかを調べるため,電子キーボードを使って実験した。これまで動物の研究に楽器が使われたことはほとんどない。しかし音楽に関係した能力を調べるには,楽器を使うのが理想的だと思った。どのキーを叩けばいいのかを伝えるために,光ナビゲーション機能のついた電子キーボードを使うことにした。叩いてほしいキーを順番に光らせるのだ。

訓練では,まずキーボードの真ん中にある「ソ」のキーが赤く光る。それを叩くと課題が始まる。下のドと上のドを交互に叩く課題である。つまり,「ソ」を叩くとすぐに下の「ド」のキーが光る。それを叩くと,これも瞬時に,上の「ド」のキーが光る。そのまま,下の「ド」と上の「ド」が交互に光るしくみになっている。ド・ド・ド・ド・・・・・・と30回叩けば正解音が鳴ってリンゴがもらえる(図)。

速く叩こうが,ゆっくり叩こうが,まったく関係ない。光のナビゲーションは,すぐに切り替わるが,チンパンジーは自分のペースで,好きなように叩けばよい。

さて,そこでテストをする。課題とは関係なく,メトロノームのようにリズム音を聞かせるのだ。タ・タ・タ・タ・ター・・・・と一定の間隅で,音が聞こえる。チンパンジーは,このリズム音に注意を払う必要はまったくない。とにかく30回キーを叩くとリンゴがもらえる。

こうした課題を人間でやってみると,課題とは関係のないはずの音を聞いても,自然にその音のリズムに自分の動きを合わせてしまう。はたして同じことがチンパンジーでもおこるのだろうか。

調べた結果,アイは,自分のテンポよりも少し遅いリズムを聞いたときに,確かにその音の規則的なリズムに合わせてキーを叩くことがわかった。リズムが不規則な場合には,音とキー叩きのタイミングが合うことはなかった。つまり,アイが少し遅いリズムに同調していたのは,それぞれの音を聞いたからではない。一定間隔で時をきざむリズムに「乗って」いたと確認できた。

動きを合わせると,こころが合わさる

人間には,生まれたときから相手の動きを「まねる」能力がある。相手が口を開けると自分も口を開ける。「ベー」と舌を出すと,自分も舌を出す。新生児模倣といわれる現象だ。そうした行動が,なぜ進化してきたかを考えてみよう。

繰り返し動きを合わせる。同調する。そうした行動の結果を考えてみると,お互いが同時に同じ動きをすることで,動きだけでなくこころまで合ってくるのではないだろうか。リズムに合わせることで,そうした同調行動を大勢が一緒におこなうことができる。

霊長類に限らず多くの哺乳類は,相手とのつながりを求めるときに,体をこすり合わせたり,グルーミングしたりする。直接相手に触れるという手段である。たしかに,ぬくもりや感触を肌で感じることは,精神的にも相手を近しい存在として感じることにつながるだろう。しかし,こうした肌と肌の触れ合いは,一度に大勢を相手にすることはできない。また,相手の数が増えると労力もかかる。

その一方で,リズムに合わせて同調するのならみんなでできる。一緒に歌をうたい,ともに踊る。それをとおして大勢が一度にこころを合わせることができる。声や体の動きといった,離れていても伝えられる情報を使って,わたしたちは一度にみんなでつながることができるのだ。

生き残るために,動物たちはそれぞれくふうをしてきた。体を大きくしたり,鋭い牙をもったり,敏感なひげをもったりした。わたしたち人間が進化の過程で発達させてきた「武器」は,互いの動きを合わせることだったのではないだろうか。同調することで,大勢の人々のあいだに,こころの強いつながりが生まれる。

この記事は, 岩波書店「科学」2013年5月号 Vol.83 No.5 連載ちびっこチンパンジー第137回『リズムに合わせて: キーボードをもちいたチンパンジーの同調行動実験』の内容を転載したものです。