図: ドリルのまばたき

まばたきをするヒト

私たちヒトは日々の暮らしの中で,思った以上にまばたきをする。およそ1分間に20回まばたきをするらしい。そんなにしているのかなと思うくらいの頻度だ。私たちはなぜこんなにも頻繁にまばたきをするのだろうか。このようなまばたきの機能は何なのだろうか。すぐに思いつくのは,角膜の乾燥を防ぐためにまばたきをすることによって常に涙をまんべんなく行きわたるようにするという,生理的な機能だ。しかし乾燥防止のためには,実は1分間に2回くらいのまばたきで十分であることがわかっている。では,残り90%のまばたきは一体何をしているのか。その答を得るため私たちは「比較」ということを考えた。そのためには,広くさまざまな種の霊長類でのまばたきの頻度に関する資料が必要だ。ところが,そんなものはどこにも存在しない。

そこで,私たちは,動物園に暮らす71種141個体の霊長類を対象に,1個体につき3~5分間のビデオ記録を行い,そのビデオから1分間あたりのまばたき回数などを計測することにした。

いつまばたくの?

こうして71種の霊長類から得られたまばたきのデータを,それに影響をおよほすであろう要因との関係で分析することにした。思いつくのは,体サイズ,昼/夜行性,生活様式などだ。これらの要因との関係を分析してみてまず驚いたのは,5分間で1度もまばたきをしない種がいたことだ。それは,ポットーという夜行性の原猿類だ。スローロリスというこれまた夜行性の原猿類は5分間で1回しかまばたきをしなかった。夜行性の霊長類は圧倒的に昼行性よりもがまばたきの頻度が少ないのだ。実は,これは霊長類という系統群だけでなく,広く哺乳類全般にみられる特徴のようだ。また,生活様式の差もみられた。まばたき頻度は,樹上性の種の方が地上性の種よりも少なかった。しかし,興味深いことに,体重の影響を考慮すると,この生活様式による差は消えてしまった。つまり,樹上性の種は地上性にくらべて体重が重いため,生活様式の差と体重の差のどちらがまばたき頗度に影響を及ぼしているのかがはっきりとはわからなかった。

目と目で通じあう?

これらの分析だけだと生理的に必要とされている以上のまばたきをする理由はまだはっきりとはしない。「何らかの」認知的機能をになっているのだろう。では,その「何らか」とは何か。ここにもう一歩踏み込んでみたい。そこで,社会性との関連を検討することにした。まばたきには社会的にみて重要な機能があるのではないか。

社会性の程度を示す指標としてよく用いられているのは,野生生息域でのそれぞれの種の集団の平均的な個体数だ。たとえば,個体数が大きくなれば他個体との付き合いの頻度も増加しかつ複雑になるだろう。実際,グルーミングの頻度は,集団内の個体数が大きくなると増えることがわかっている。そこで,それぞれの種の集団の平均個体数のデータをかき集めて,再度分析を行った。するとやはり, まばたき頻度と個体数の間に無視できない正の相関が見つかった。

この関係は,体サイズの要因を差し引いても有意なものとして残った。霊長類では,種としての集団の平均個体数が大きくなるほどまばたきの頻度が増えるのだ。たとえば,先のポットーやスローロリスは,夜行性であるだけでなく単独生活者でもある。一方,チンパンジーの集団の平均個体数は53。まばたきは1分間に19.4回だった。アジルテナガザルはペア型の社会を構成するが,1分間に4,1回のまばたきをした。単独ないしは親子で行動することの多いオランウータンは6.8回だった。

この結果はいろいろと解釈できる。まばたきをする200ミリ秒という短い時間であっても,この間に視覚環境の変化が生じると,それを検出するのはきわめて難しい。これは,捕食者に対する警戒行動にとっては致命的かもしれない。この点から言えば,まばたきは極力少ない方がいい。しかし,集団内の個体数が大きくなると,1個体あたりの負担が低減される。その結果, 警戒行動のために抑制されていたまばたきは,それを分担してくれる個体の数が増えるにつれて増えていく。この増えたまばたきが,社会の中で何がしかの役に立っているのではないか。

そして,ぞれはコミュニケーションとしての機能だと私たちは考えている。間接的な証拠としては,まぶたの色が挙げられるかもしれない。ゲラダヒヒなど,まぶたの色が顔の色よりも白い種がいる。このような種ではまばたきが非常に目立つシグナルとなる。威嚇などにも機能しているのだろう。また,ヒトにおいてはそれを示唆する知見がいくつか報告されている。たとえば,会話をしている人の間でのまばたきの同調などだ。系統関係といった,今回の分析から抜け落ちている要因がまだまだ存在することは確かだが,「まばたきはコミュニケーションツール」という,私たちのアイデアは作業仮説としてはとても魅力的だ。彼らは,無言であっても目と目で通じあっているのか,実際の彼らの生活という文脈の中でさらに調べてみたい。

なお,本研究はPLoSONEで無料で公開されている。

この記事は, 岩波書店「科学」2013年8月号 Vol.83 No.8 連載ちびっこチンパンジー第140回『まばたきはコミュニケーション』の内容を転載したものです。