図: ワオキツネザルと子どもたち。身近にサルを見ることができる

はじめに

日本モンキーセンターが公益財団法人として生まれ変わった。京都大学(京大)教授3人が,在職のまま兼任で,協力して運営に携わる。経緯とめざすところを述べたい。

日本モンキーセンター(JMC)は1956年に設立された。愛知県犬山市に拠点をおき,2013年度末まで文部科学省が所轄する財団法人だった。霊長類学の英文国際誌「プリマ一テス」を刊行し, 愛知県で2番目に古い登録博物館として学芸員をおいて霊長類に関する展示をおこない,その一環として附属サル類動物園を保有している。日本に動物園は約90あるが,大半が県や市の運営だ。教育関係の局ではなく,公園などを所轄する土木局などのもとにある。博物館登録されている動物園は日本にここひとつしかない。

日本の霊長類学は1948年12月3日に始まった。学問の出発点を特定できる珍しい例だろう。今西錦司(当時42歳の京大無給講師)が2人の学部生(川村俊蔵と伊谷純一郎)を伴って,宮崎県の幸島に野生のサルを見に行った日である。幸島のサルはすでに戦前から,地元の努力で天然記念物に指定されていた。今西は,都井岬の半野生ウマの観察中にサルに遭遇し,着想を得たという。サルの社会を知ることが,人間の社会を知ることになると考えた。

京大の2霊長類研究グループと東京大学の実験動物研究グループが中心になり,渋沢敬三ら財界,とくに名古屋鉄道株式会社(名鉄)の支援を得てJMCを作った。今を先取りする,産学の連携事業だ。関西の阪急―大阪―宝塚がモデルになっている。鉄道会社が大都市の郊外に施設を作り,日帰りの行楽とともに宅地化を進める。中部地方の名鉄―名古屋―犬山である。犬山には国宝の犬山城があり,そこへJMC,博物館明治村,リトルワールドなどができた。

公益財団法人への道<

動物園入場者数は,1987年には約100万人だった。その後は年々減少し,近年は50万人台である。名鉄ないしその関連会社が運営の実質的な主体で,財団法人への関与を通じて京大の研究者が支緩してきた。民間が運営する一帯の正式名祢は「日本モンキーパーク」だ。主要道路をはさんで西には,ジェットコースターや観覧車に乗れる遊園地があり,東にサルに特化した動物園がある。

入場者数の減少で,動物園の経営はむずかしくなっていた。一方で,「公益法人の認定等に関する法律」の施行(2006年)により,財団法人そのものは,2013年度をもって解散するしかなくなっていた。選択肢は大きく3つだった。①公益財団法人となって公益を重視する,②解散して民間の経営となり収益を重視する,③その中間として一般財団法人化して従来の公益事業の一部を残す。

この地球には,人間を除いて約300種類の霊長類がおり,中南米,アフリカ,インド・東南アジアの熱帯とその周辺にくらしている。そのすべてが絶滅危惧種だ。彼らの野生でのくらしは,人間の活動によって危険に瀕している。森林伐採による生息地の破壊,売買目的の密猟や害獣としての捕殺,そして人間に近いための病気の感染だ。動物園は自然への窓である,JMCは68種985個体(2014年4月1日現在)のサルたちを保有する。この種数は動物園としては世界ーであり,日本が世界に誇る貴重な財産だ。サルを目の前で見ることで(図),実際の体験を通じて,人間とは何かを知り,われわれが共に生きる地球について思いをめぐらせる。

大学の使命は,学問を通じて社会に貢献することだ。それには研究・教育・実践という3つの側面がある。研究・教育の成果を実践する場所として最も責任が重く,最も困難が予想される,公益財団法人への道を選んだ。

博物館としての動物園

自然への窓であるためには,JMCの職員みなが,自然そのものの姿を知っている必要がある。新たに公益財団法人となった最初の全体集会でたずねると,約30名の職員のだれ一人として幸島を見たことがないという。そこでサルの生息地研修から始めている。3泊4日で幸島に野生のサルを見に行ってもらった。

幸島は,岸から200mほど沖合の無人島だ。京大の職員らが,1948年から数えて67年目になる長期継続観察をしており,世界で最も長い針野生動物の観察基地のひとつだ。2群れ合計90頭(2014年4月月1日現在)のサルがいて,先祖を8世代もさかのぼれる。サルの国の系譜が記録されている。

屋久島にも京大の施設があり,サル以外にもシカやウミガメなど多くの野生動物を見ることができる。熊本サンクチュアリには,日本でそこにしかいないボノボ(チンパノジーの同属別種)を見ることができる。さらにはボルネオやアフリカに調査基地があり,アマゾンにも計画中だ。そうした大学の施設を利用し,実体験を通じてモチベーションを高めてもらいたい。

京大リ一デイング大学院の事業で,「霊長類学・ワイルドライフサイエンス」を開始した(http://www.wildlife-science.org/)。主要な実践の場がJMCである。将来,博士の学位をもった学芸員が次々とあらわれ,専門的な知識と体験を活かして,動物園・水族館・博物館で働く日を夢見ている。

最後に,一般の方々からの力強い支援をお願いしたい。 入場料おとな600円。「モンキー友の会」年会費3000円。HPから申し込みできる(http://www.j-monkey.jp/)。「モンキー法人友の会」も発足予定だ。そうした人々の理解と支援が,この事業の成否の鍵だと思う。原則として火曜・水曜が休館日。ぜひ犬山に来てください。

この記事は, 岩波書店「科学」2014年8月号 Vol.84 No.8 連載ちびっこチンパンジー第152回『公益財団法人日本モンキーセンター:「自然への窓」としての動物園』の内容を転載したものです。