Video Credit: Naruki Morimura/Wildlife Research Center, Kyoto University
ニンバ山の山火事

チンパンジーの“傘”

西アフリカ,ギニア共和国のボッソウはマノン族の人々がくらす村である。彼らは,ギニア,コートジボワール,リベリアにまたがる世界自然遺産ニンバ山の周辺に分布する“森の民”だ。森にまつわる様々な伝統的儀式や習慣がある。ボッソウでは,村全体でチンパンジーをトーテムとして崇拝しており,殺して食べることを禁忌としている。村人はチンパンジーと伝統的に共存してきた。また,病気になったら薬を求めて森に入る。発熱,下痢,産後の肥立ちなどへの,様々な伝統薬が存在する。料理のため,肉や山菜や調味料などを求めて森に入る。

村人が信仰するその森は,チンパンジーが作った,と言えるのかもしれない。保全生物学の概念で,チンパンジーはアンブレラ(“傘”)種とされる。チンパンジーが生きるためには豊かな自然環境が必要であり,チンパンジーがくらす森は様々な動植物が存在する生物多様性の宝庫である。またチンパンジーは果実を主食とし,食べるときに種を丸呑みする。森のどこかで果実の種は糞とともに排出されて,やがて芽吹き,チンパンジー好みの森が広がる。チンパンジーのくらす森は,チンパンジーとともに生きる様々な動植物のこのような相互作用によって維持されている。つまりチンパンジーがいなければ,異なる様相の森ができる。マノン族の伝統的なくらしは,チンパンジーの森によって守られてきた。

Image Credit: Naruki Morimura/Wildlife Research Center, Kyoto University
図1: ニンバ山の山火事

燃える世界遺産

その森が,切り倒され,燃えている。今年の1月19日,ボッソウから東南へ6kmのところにあるニンバ山を大規模に焼く山火事があった。その後の調べで。密猟者が獲物を追い立てるために森に火をつけ,乾季の強風にあおられて草地を中心に燃え広がり。ニンバ山の山頂まで延焼したことがわかった。偶然にも山火事が起きた日に,私たちは無人航空機(ドローン)を持ってニンバ山を登山していた。

朝は曇りで,ふもとのセリンバラ村からニンバ山頂は見えない。裾野に広がる大森林を登っていくと。昼どきには稜線一帯に広がるサバンナに出る。副稜線のピークでひと息つく。心地よい風に混じって,「パチパチパチ,パチパチパチ」という枝の爆ぜる音が聞こえてきた。山にかかる霧の向こうへと目をこらすと,ニンバ山がすぐそこで燃えていた。キャンプ地まで一気に登ると,主稜線で火の手が見えた。しばらく様子を見ているうちに,雲が切れてニンバ山の山頂まで視界が開けた。山はすっかり焼けて,一面の黒肌をさらしていた(図1)。被害は主稜線を数km焼く甚大なものだった。

ニンバ山には推定で300人ほどのチンパンジーがくらしており,森はゆっくりと回復していくだろう。しかし,ボッソウの森にくらすチンパンジーは現在7人となり,地域集団は絶滅へと向かっている。最近,森にはチンパンジーが好んで食べる果実が大量に余るようになった。少子高齢化で,推定50歳を超えるチンパンジーが3人いる。食べ盛りが4人だけでは,もはや食べきれないのだろう。森はかつての勢いを失いつつある。それでもかまわず,保護区の木を切る村人がいる。

Image Credit: Tetsuro Matsuzawa/Primate Research Institute, Kyoto University
図: ドローンの操縦を学ぷ現地スタッフ

ドローンを活用した森作り

「緑の回廊」という植林プロジェクトが,1997年よりボッソウではじまった。チンパンジーの森を復元するために,チンパンジーの糞から生えた苗木を集め,苗床で50 cm ほどまで育て,ボッソウとニンバ山のあいだに広がるサバンナに植樹してきた。最初の10年で植樹する技術を開発した。次の10年でボッソウとニンバ山のあいだ4kmをつなぐ植林に取り組んだ。残すところ150m。 20年目となる今年の12月までに,ボッソウとニンバ山の森はか細い緑の線でつながる。

この植林活動は,ドローンによってさらに加速すると期待されている(図2)。今年1月から,緑の回廊の活動地域およそ400haをドローンで継続的に撮影している。写真をよく見ると,植林地には小さな林が多数点在している。2013年を最後に野火の侵入がなかったため,サバンナに自生する木々が生長してきているのだ。活動地域の外にあるサバンナでは村人が毎年のように火入れをしているため,こうした林はほとんどない。点在している木々を最短距離で結ぶように植樹をすれば,効率よくボッソウとニンバ山の森をつなぐことができる。人間が決めるのではなく,その土地が持っている力を引き出す。

ボッソウからニンバ山まで,ひとつの大きな航空写真を作ることもできる。森がどこにあり,畑,がどこにあるのか,村人が傷つけた森のかたちがはっきりとわかる。誰かを責める必要はない。森が必要なことは,彼らが一番よくわかっている。豊かな生活の追求という普通の行為が,時に無秩序に溢れて,チンパンジーの森を,そして長い時間をかけて知識や技術を積み重ねて築いた彼らの生活をも破壊する。時々ふと立ち止まり,森を俯瞰すれば,目先も変わる。そうやって,緑の回廊で作る人工のチンパンジーの森は,少しずつ彼らの中にも根を下ろすだろう。

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ニンバ山の山火事などの2017年1月にドローンで撮影した動画が,緑の回廊ホームページで公開されています 。
https://www.greencorridor.info/en/videos/Green-Corridor/

この記事は, 岩波書店「科学」2017年10月号 Vol.87 No.10 連載ちびっこチンパンジー第190回 Page: 0912-0913.『ドローンを活用して“チンパンジーの森”を復元する』の内容を転載したものです。