2人で連続的に協力しなければ解決できない認知課題を考案した。コンピューター画面に出てくる1から8までの数字を小さいものから順番に答える課題で,2人のチンパンジーが役割交代をしながら連続的な協力行動をとることを世界で初めて実証した。研究論文が公表されたので、その内容と意義を紹介したい。

役割交代を続ける協働作業を検証する

人間以外の霊長類を対象としたこれまでの研究では,2人が協力して課題を解決できることが,これまでさまざまな場面で実証されてきた。しかし,ほとんどの例は1回きりの動作だ。たとえば、2人で同時にひもをひっぱって遠くの台を引き寄せて食物を手に入れる。それに対して,1回だけでなく何回も連続して,互いに役割交代しながら,息をあわせて解決する能力についてはこれまでほとんど研究がなかった。

実験に参加したチンパンジーは,それまでに1から9までの数字を順番に選ぶことを習得していた。コンピューターの画面にランダムに散らばる一連の数字を,小さいほうから順番に触ることができる。数字がとんでいても小から大の順に選べる。

今回は,役割交代を必要とする場面を作るため,その課題を「共有する」場面を用意した。画面の半分にしか触れられない。画面前に座る2人のチンパンジーの間には透明な隔壁がある。つまり,右のチンパンジーは画面右半分に表示される数字のみ触れることができる。左のチンパンジーは画面左半分に表示される数字のみに触れることができる。つまり,お互いに画面の全体つまり全部の数字を見ることができるが、自分が触れられるのは自分の側の半分だけだ。すると,ほんの最小限のことを教えただけで,この数字の順番を協力して答える、という新しい課題をチンパンジーはマスターした。

たとえば画面右半分に「1, 4, 6, 7」,左半分に「2, 3, 5, 8」の数字を表示したとする(図上参照)。まず右のチンパンジーが「1」をタッチすると,続けて左のチンパンジーが「2,3」をタッチ,するとすぐ右のチンパンジーが「4」をタッチする,といったふうに,交互に役割交代をしながら,協力して一連の数字を順番に選択していくことができた(図下参照)。

子どもは親のようすをよく見ている

チンパンジーの2個体を1組として,3組でこれを検証した。アイ35歳とアユム12歳。クロエ32歳とクレオ12歳。パン29歳とパル12歳。いずれのペアも母子で,全員が1群13人の集団で暮らしている。

22インチのタッチパネルつきモニターの左半分と右半分が,それぞれのチンパンジーに割り当てられており、あいだに透明な隔壁がある。つまり相手の半分のモニターを見ることはできても、そこに現れた数字には触ることができない。隔壁がじゃましているので手を伸ばせないのだ。

手続きとして,2数字,つまり双方に数字が1つずつという条件から始めた。1と2だけ,ついで3と4だけで課題をおこなう。ついでそれぞれの画面に2数字,3数字,4数字と順に増やした。最終的には1から8までの8数字が画面の片方に4数字,もう一方に4数字が出てくる条件だ。この8つの数字を,交互に役割交代しながら1・2・3・4・5・6・7・8と順に協力して選ぶ課題だ。

こうすると,一連の手順を2つの場面に切り分けられる。つまり,相手が押したあと自分が押す「スイッチ(交代あり)」の場面と、自分が押したあともう一度自分が押す「ステイ(交代なし)」の場面とがある。

結果を3点に要約する。①まず,協働課題を学習できることがわかった。②さらに子どものほうが親より正確で素早く反応できた。③親ならスイッチのときのほうがステイよりもちろん時間がかかるが,子どもはステイもスイッチも反応時間が変わらなかった。つまり子どもは親をよく見ている。社会的な情報の流れは「母親から子どもへ」という方向性が顕著だった。つまり。母親がしていることを子どもはとてもよく見ていて、母親が行動すると子どもはすぐそれに対応する。その逆ではない。子どもは母親から学ぶ。野生チンパンジーの社会的な学習、たとえば石器を使うことを学ぶなど,それを彷彿とさせる結果だった。

役割交代する協働作業の意義

集団生活で生じるさまざまなジレンマに対して,「社会的な協調・協働」(各自の持ち場から協力して一連の課題を達成すること)が有効な解決方法になる。

自然界に広く目を向けると,人間を含めた多くの動物で、信号の伝達や社会的なやりとりにおいて,一連の長い課題を協働して役割交代して実行することが必須となる。コミュニケーションや言語といった,広くいえば社会的なインタラクションの背後には、必ずターン・テイキングと呼ばれる役割交代や話者交代がある。そうした役割交代の進化を考えるうえで,母と子を題材にした貴重な知見だといえる。

今回の研究は,人同以外の動物の協力行動・協働行動を研究する新しいパラダイムを作ったともいえるだろう。「コンピューター・アリーナ」と名付けた一台の画面上で複数個体の共同作業を分析する道が開けた。

この研究は科学研究費補助金・特別推進研究(16H06283),研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型、CCSN),ならびにリーディング大学院(U04)の支援を受けました。記して感謝します。

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Martin CF , Biro D, Matsuzawa T(2017)
Chimpanzees spontaneously take turns in a shared serial ordering task.
Scientific Reports 7, Article number: 14307. DOI: 10.1038/s41598-017-14393-x [日本語解説]
この記事は, 岩波書店「科学」2017年12月号 Vol.88 No.12 Page: 1114-1115  連載ちびっこチンパンジー第192回『チンパンジーが協力して課題解決:2人で数字を順番に答える』の内容を転載したものです。