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講演『想像するちから:チンパンジーが教えてくれた人間の心』
京都大学霊長類研究所教授 松沢哲郎
(この文章は2014年12月4日に日本綿業倶楽部にて開催された、日本綿業倶楽部の倶楽部茶話会での講演内容を再録したものです)

ギニア・ボッソウでの野生チンパンジーの研究

北アメリカとヨーロッパにサルはいません
図7. 北アメリカとヨーロッパにサルはいません

ヒト科は「ヒト科ヒト属(ホモ属)」「ヒト科チンパンジー属(パン属)」「ヒト科ゴリラ属」「ヒト科オランウータン属」の四属ですが、その前提として、あまり一般には意識されませんが、北アメリカとヨーロッパにサルはいません。アメリカザル、フランスザル、イギリスザル、ドイツザルは存在しません (図7) 。霊長類は人間を含めて三百種類ぐらいいますが、人間以外はすべて地図の緑色の地域、中南米、アフリカ、インド、東南アジアに分布しています。この分布図から日本の下北半島が野生霊長類の北限であることがわかりますが、北アメリカとヨーロッパにサルはいませんから、G7やサミットと呼ばれる先進国のなかでサルがいるのは日本だけで、じつは特別な位置を占めています。北海道にサルはいません。下北半島のニホンザルが北限の野生霊長類です。



図8

図9. アフリカは非常に大きな大陸

私はアフリカで野生のチンパンジーを研究していますが、まず「アフリカは非常に大きな大陸である」ということからお話ししたいと思います。 (図8)

インド・アメリカ・中国・ヨーロッパ・アルゼンチン・メキシコをジグソーパズルのように組み合わせてアフリカに入れてもまだ余ります。これがアフリカの大きさです (図9)

私は西アフリカのギニア、ボッソウ(Bossou)でチンパンジーの調査を続けてきました。



図10. 西アフリカで初めてのエボラ出血熱の流行
2014年3月にギニアのゲゲドゥー県で初発した (WHOの公表資料・森村成樹作図 http://greencorridor.info/

ギニアというと、どうしてもエボラ出血熱を避けてはお話できません。これまでエボラ出血熱はコンゴをはじめとしたアフリカ中央部だけで発生していたのですが、今年、初めて西アフリカで流行しました (図10)。最初の患者が見つかったのは私の調査地からわずか百五十キロメートル離れたところです。現在もギニア、リベリア、シエラレオネの三国では患者数が増加していますので、かの地への渡航が制限されています。

この機会に「エボラ」の語源を覚えて帰っていただければと思います。一九七六年、いまから三十八年前にコンゴを流れる巨大なコンゴ川の支流、エボラ川に面した小さな村で最初の患者が見つかりました。「エボラ」はこのエボラ川から名づけられています。まだ見つかってから日が浅い病気なのですが、今年、どういうわけか西アフリカで発生しました。



図11. 世界自然遺産のニンバ山の麓に作られたボッソウ環境研究所. 1995-1997-2000年に外務省の支援があった

図12. 2011年ギニアのボッソウで. Yena KIM撮影

図13

そして、西アフリカのギニア、ボッソウには一群れのチンパンジーが生息していまして、四キロメートルぐらい離れたところには世界自然遺産のニンバ山があります。日本では屋久島、知床、白神山地などが世界自然遺産に登録されていますが、このニンバ山の麓に国立のボッソウ環境研究所(IREB:Institut de Recherche Environnementale de Bossou)があります。一九九五-一九九七-二〇〇〇年に日本の外務省の支援があり、ここをベースに研究が行われています (図11-13)

ボッソウの野生チンパンジーは一組の石をハンマーと台にして、アブラヤシの硬い種を叩き割って中の核を取り出して食べることで有名です。



動画2. 石器を使って、アブラヤシの固い種を叩き割る、中年女性チンパンジーのジレ

その様子を見てください。(動画2を見ながら)種を拾って、石に乗せて、カツカツカツと叩きます。彼女は左利きですね。チンパンジーに利き手があることを我々が発見しました。個体ごとに、一〇〇%利き手が決まっています。