細かく色分けされた一日の活動記録。チンパンジーと一緒だった時間が一目で分かる

高校3年生の夏休みに、一念発起して受験勉強を始めた。そのときに考案した時間管理法が2つある。実は心理学や動物行動学の研究でも使われている方法であることを、後になって知った。研究や仕事にも幅広く応用できるので紹介したい。

300ページの参考書を買ったとしよう。まずパラパラとめくって全体を見る。自分の力量を考え、どれくらいの期間で完遂するか決意する。

1か月で仕上げると決めたら四角形を描き、横軸に30日を、縦軸に300ページを目盛る。左下隅の原点から右上の目標点まで対角線を引く。1日10ページのペースで上がっていく直線だ。

あとは毎日、何ページまで進んだか印をつけ、結んでいく。はかどった日は線の傾きが対角線より急になる。1日何もしないと、線は水平だ。

できるだけ対角線から離れないように、最初に決めたペースで勉強を進めていく。1ミリ間隔の升目がある方眼紙が、進んだページ数を正確に記録できて便利だった。首尾よく1冊終わると、右肩上がりの線が美しい。

大学で心理学を学んで、この方法は行動累積記録と呼ばれるものと同じ原理だと知った。有名な行動主義心理学者、B・F・スキナーの発案だ。

たとえばネズミがレバーを押す。ハトが丸窓をつつく。スキナーは、動物が特定の行動をするたびに、ペン先が少し上へと動く機械を作った。記録用紙はドラムに巻かれ、一定の速度でゆっくりと繰り出される。ペンが描く軌跡は、横軸が時間、縦軸が行動の累積回数を示すグラフになる。

もうひとつは活動内容の記録である。「1ミリ6分間勉強法」と勝手に名付けた。これも方眼紙を使う。横に置くと幅は25センチだ。高さ1センチの1行が1日分である。まず左端の1センチ四方のマスに日付を書く。残り24センチに、0時から24時までの行動を記録する。1ミリがちょうど6分間だ。

朝起きたら、その時刻に縦線を引く。夜寝る時にも縦線を引く。あとは勉強した時間を、色鉛筆で塗りつぶす。

科目によって色を変えた。英語、数学、国語、化学、世界史、日本史。6分刻みで勉強した科目が記録されていき、どの勉強をどれだけしたかひと目でわかる。1日なにも勉強しないと、起床と就寝を示す2本の縦線だけで空白だ。すこし寂しい。色を塗るために勉強するようになった。

大学で行動観察法を学んで、これは活動時間配分と呼ばれるものだと知った。動物の1日の主要な活動は「食べる」「休息する」「仲間と関わる」「移動する」「眠る」の5つで表される。何時何分から何時何分まで食べていたか、移動していたか、その活動をつぶさに記録し色分けする。

活動時間配分の記録は今も続けている。この10年間は、野外観察で使う小型のノートと4色ボールペンを利用している。このノートに落ち着いたのは(1)ポケットに入れて持ち歩ける(2)1冊百円程度で安い(3)どこにでもあるのですぐ買える —という理由からだ。

最初の1枚をめくり、次の見開き2ページを使う。1ページに21行あり、1行が1日だ。左端に日付と活動場所を書き、朝6時から翌日6時までの24時間を色分けする。学問している時間は赤、会議など人と会っているのは青、休息や食事は緑、寝ているのは黒の斜線だ。チンパンジーと一緒の時間は赤で塗りつぶす。残りのページは自由記述の日誌で、ちょうど3週間で1冊を使い切る。

起床と就寝の時刻がそろっていれば、活動時間の両端は一直線になる。不規則な暮らしをしているとでこぼこだ。できるだけ毎日同じに、単調に繰り返すように努めている。行動累積記録に求めたのと同じ「継続こそ力」の発想だ。ノートは226冊目になった。

こうして行動を記録する要点は3つある。(1)事実を客観的に正確に記す(2)事実に基づいて自分の行動を振り返る(3)自分で自分の努力をほめる。

主観を排してひたすら事実を記録していくのは、動物を理解する第一歩である。自分を知りたいのなら、活動時間配分の記録を勧めたい。

日経新聞連載新聞記事『活動記録から自分を知る』
出典:日経新聞2015年10月25日朝刊  松沢哲郎教授連載「チンパンジーと博士の知の探検」第23回『活動記録から自分を知る』