Image Credit: Tetsuro Matsuzawa /Primate Research Institute, Kyoto University カメルーン東南部では、熱帯林から切り出した巨木を運ぶトラックが行き交っている
カメルーン東南部では、熱帯林から切り出した巨木を運ぶトラックが行き交っている

昨年12月、カメルーンに住む採集狩猟民の調査のため、首都のヤウンデから東南部のグリベ村まで、2日間の自動車の旅をした。走り始めてほどなく、巨木を積んだトラックと頻繁にすれ違うことに気づいた。これまでに訪れたほかのアフリカ諸国や、マレーシアのボルネオより格段に多い。

途中のアボンバンという町が、木材の集積地になっていた。ここから海辺の都市ドゥアラに運ばれ、主に欧州に向けて船で輸出されるという。木材はカメルーンの主要な輸出品目のひとつだ。

トラックを数えたところ、1日に96台にのぼった。1台に2~6本の丸太が乗っている。最も多かったのは3本。1日約300本の丸太が運ばれていることになる。

いずれも幹の直径が1メートル強の巨木で、停止したトラックの横で歩測したところ、長さは10メートルくらいだった。体積は1日の合計で約3000立方メートルになる。毎日この量が切り出されていると仮定すると、1年間でおよそ100万立方メートルだ。

林野庁の「森林・林業白書」2015年版によると、我が国の木材の年間輸入量は486万立方メートル。その約2割強に相当する。

環境保全の世界では、「サステイナブル・ユース(持続する資源利用)」という言葉が、よく使われる。森の木を全部切ってしまうのではなく、大きな木だけ切ってあとは残しておく。残した木が大きくなってからまた切る。一見合理的に聞こえるが、実は問題がある。

直径が1メートルもある巨木を森から運び出すには、道をつくらなくてはならない。既存の道路から巨木のある場所まで、ブルドーザーを使って道をつけていく。統計に表れるのは1本の丸太だけだが、それを切り出し、運ぶために、膨大な木々がなき倒される。その量はどこにも記録されない。

野生ボノボの調査地に向かうため、約1000キロメートルをチャーター機で飛んだことがある。眼下にコンゴ盆地の熱帯林が広がっている。よく目を凝らすと、ところどころに密林を切り開いた道路があった。そこから脇道が出て、森の奥へと延びている。そうやってつくった伐採道路が、網の目のように広がっていた。

熱帯林には本来、自然に回復する力がある。巨木が倒壊すると、「ギャップ」と呼ばれる空き地ができる。そこに、まずパラソルツリーのような先駆種が生え、そのあとに、寿命が長く、より高くなる極相種が育っていって、森が更新される。

そうした自然のサイクルでは対応しきれない、巨大で連続したギャップが道路だ。樹冠部をすみかにしている動物は、ギャップから先へは移動できなくなる。巨木に巻きついていた植物や、それを食べる動物や昆虫も根こそぎもっていかれる。

日本のスギ林や北欧の建築材の森は、1種類の木からなる。切っても植林すれば復元される。だがアフリカの熱帯林には、多種多様な樹種があり、それをすみかとする多種多様な動植物がいる。植林では対応できない。巨木は森の多様性を保つ傘なのだ。

コンゴ盆地の西北部は、「サンガ川流域の3か国保護地域」という名で、2012年に世界自然遺産に指定された。カメルーンのロベケ国立公園、中央アフリカ共和国のサンガ・ンドキ国立公園、コンゴ共和国のヌアバレ・ンドキ国立公園の3つからなる。ゾウとチンパンジーとゴリラが同じ場所にすむ、アフリカ最後の桃源郷である。

目的のグリベ村に着いた。道路はその先、保護地域の森に向かって真っすぐに延びていた。道路ぞいに定住集落が点在し、ブッシュミートと呼ばれる野生動物の肉が取引されている。象牙目的の密猟もあとを絶たない。世界自然遺産の森のすぐ近くまで伐採が進み、人が入り込んでいる。

車で走った道の両側には、パラソルツリーだけからなる林が続いていた。いかに科学が進んでも、時間だけはどうにもならない。100年の巨木を切れば、再び育つまで100年かかる。この地域では、もはや伐採なしには暮らしが立ち行かないだろう。巨木の伐採を止める方策はあるだろうか。窓の外を見ながら、そんな思いを巡らせた。

日経新聞連載新聞記事『巨木伐採 多様性の根奪う』
出典:日経新聞2016年01月31日朝刊  松沢哲郎教授連載「チンパンジーと博士の知の探検」第37回『巨木伐採 多様性の根奪う』