Image Credit: Tetsuro Matsuzawa /Primate Research Institute, Kyoto University ケニアのツルカナ湖畔で見つかった約152万年前の人類の足跡
ケニアのツルカナ湖畔で見つかった約152万年前の人類の足跡に自分の足を重ねてみた

東京大学教授の諏訪元さんらが、2000年代半ばにエチオピアで発見したゴリラの祖先候補の化石が、約800万年前のものだと突きとめた。今月11日に英科学誌「ネイチャー」で報告した。

化石が出土した地層を新たな測定技術を駆使して精査し、年代を特定した。800万年前にはヒトとチンパンジーの共通祖先がゴリラの祖先から分かれ、進化を始めていたとみられる。また700万年前までにはヒトとチンパンジーが別の系統へと分岐を始めたことも示唆された。これまでの通説よりもかなり古い。

ほぼ全身の骨格が残っている最初の人類は、約440万年前に生息していたアルディピテクス・ラミダス(ラミダス猿人)だ。諏訪さんはラミダス猿人の最初の発見者として知られる。

人類の定義は、「直立二足歩行する大型の尻尾のないサル」である。ラミダス猿人は、その骨格から直立二足歩行をしていたことがわかっている。だが足の骨をみると、親指が他の指から離れて向き合っており、木の枝をつかむことも巧みだったようだ。チンパンジーのように樹上でも暮らせるが、地上に進出した人類と考えられる。

さらに時代がくだって400万~200万年前には、アウストラロピテクス属と呼ばれる人類がすんでいた。その化石がアフリカ東部の各地から見つかっている。

エチオピアで見つかったアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)の「ルーシー」は、全身の約4割の骨格が残っていたが、肝心の足がない。ただし骨盤の形などから、直立二足歩行していたことは確かだとみられている。

こうした過去の人類誕生の地を自分の目で確認したいと思っていたところ、2008年夏、米ラトガース大学の友人が主宰する発掘調査に加わる機会を得た。ケニアのツルカナ湖東畔にある、約152万年前の地層の調査だ。荒涼たる大地の表面に、わたしのような門外漢でもすぐわかる頭骨やその他の骨格の化石が数多く露出していた。

チャーター機から降り立つと、猛烈な暑さだった。気温はセ氏50度にもなる。炎天下の発掘現場にテントで日陰をつくった。15分ほど発掘作業をしたら、日陰に戻って水を補給する。それを繰り返す。

調査隊が最も重視していたのが足跡だ。ここはかつて水辺だったらしく、多様な動物の足跡化石に交じって、明らかに人間とわかる足跡があった。わたしの足を重ねてみると、形も長さもほぼ一致した。地層に化石が残っていた、ホモ・ハビリスなどホモ属の人類の足跡だと思われる。

足跡の真上からレーザト光を照射し、反射して戻ってくるまでの時間を精密に測った。こうすると、各場所の深さが正確にわかる。測定から足の裏の3次元形状を再現し、「土踏まず」が発達していたことを実証した。

樹上生活を送るチンパンジーやゴリラは、いわゆる偏平足だ。土踏まずの発達は、直立二足で長距離を移動していた確実な証拠になる。論文は米科学誌「サイエンス」に2009年に掲載され、足跡写真が表紙を飾った。

約6600万年前に新生代が始まり、哺乳類は地球上のさまざまな環境に適応して多様化した。空にすんだコウモリ類。海に潜ったクジラ・イルカ類。多くは地上に残ったが、霊長類は樹上をすみかとした。枝をしっかり握ることができる4つの手をもつのが特徴だ。ヒトは森を出てサバンナに進出し、2本が歩行するための足になった。

1000万年前から現在までという長い射程で見ると、ヒト科に属する種は徐々に減っている。現在はヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンの4属で、それぞれ1~2種しかいない。ヒトはサピエンスー種だ。

一方、ニホンザルが属するマカカ属やヒヒ属を擁するオナガザル科は、種を増やしている。ヒマラヤ4500メートルの雪のなかで地衣類を食べるキンシコウもいるし、海辺で石器を使って貝を食べるカニクイザルもいる。

一般に思われているのとは逆に、尻尾のないヒト科は絶滅の方向にある。むしろ尻尾のあるサルの仲間が種の数を増やし、さまざまな環境で生き延びて、繁栄しているのである。

日経新聞連載新聞記事『足跡が語る人類の進化』
出典:日経新聞2016年02月21日朝刊  松沢哲郎教授連載「チンパンジーと博士の知の探検」第40回『足跡が語る人類の進化』