Image Credit: Tetsuro Matsuzawa /Primate Research Institute, Kyoto University
日本霊長類学会で研究発表する高校生と筆者(2015年7月、京都大学)

3月中旬、わたしの母校である都立両国高校の2年生が、修学旅行で京都にやってきた。高校側と相談し、生徒の希望で参加するコースに、京都大学の学生と一緒に野山を歩くというコースを設けてもらった。

案内するのは、京大で生物学や化学を学ぶ学部生や大学院生たちだ。フランス、ポルトガル、中国から来た留学生も加わった。

学部を越えて連携する京大リーディング大学院「霊長類学・ワイルドライフサイエンス」で取り組んできた、高校と大学を結びつける試みの一環である。大学の研究現場を体験してもらい、科学を志向する心を育てるのが目的だ。

両国高校は昨年度、霊長類研究所に実習に来た。研究所の隣にある日本モンキーセンターでも、高校生の実習を積極的に受け入れている。

2015年度から、高校生が訪れやすい京都市動物園での実習も始めた。直接に指導するのは、大学1年のときから霊長類学に触れるセミナー・実習のコースを履修している大学生たちだ。母校に出向いて先生にかけ合い、生徒たちに講演して希望者を募る。

初年度は大阪府の北野高校と関西大倉高校の生徒たちが参加した。9人の1期生が学生に引率され、2月から月に1~2回、計18回にわたって動物園を訪れた。秋からは2期生9人が加わった。

観察するのはチンパンジー、ゴリラ、マンドリルなど6種の霊長類だ。ひたすら行動を見つめ、記録し、ビデオを見直す。よく飽きないなと周囲が思うほど熱心に観察した。

観察の傍ら大学で数回会議を開き、わかったことをまとめた。学生たちが直接指導して、さらに教員や博士研究員が内容を吟味した。7月、その成果を京大で開かれた日本霊長類学会で発表してもらった。研究結果を1枚の紙にまとめて掲示し質疑に応じる、正式な学会発表の形式だ。

「ゴリラの母親は父親より頻繁に子どもに視線を向けるが、父親は視線を向けている時間が母親より長い」「マンドリルやゴリラの個体同士が接触する回数は、最高気温が高いほど減少する」などの報告があった。

もともと霊長類学に強い興味があるわけではない高校生が、主体的にテーマを決め、観察法を考え、データを取り、考察するまでに成長する姿が頼もしかった。学生たちはそう口をそろえる。

普通なら見落としてしまいそうなところに目をつけ、観察を続けた生徒たち。椅子に座って学ぶのではなく、まず徹底して「見る」ことを実践した彼らは、確実に自分の見方を養っていた。

冒頭の京大生と歩くコースには、両国高校の生徒たち20人が参加した。朝8時すぎに京大に集まり、2~3人に1人の学生がついて出発した。目指すは大文字山である。

1時間ほどで、「大」の字の真ん中に到着した。一休みしたあと、山を下って法然院に出た。本尊のお釈迦様の前でご住職の講話を聴き、方丈庭園を見ながら静かなひとときを過ごした。その後、真如堂や吉田神社などを経て、京都大学の正門に行き着いた。

案内役は途中で交代し、高校生たちは4人の京大生と親しく会話を交わした。参加した生徒たちの多くは、生物学や化学を目指している。なぜいまの分野を志したか、どうして京大にしたのか、将来は何になりたいかといった質問が先輩に発せられた。

かつて劇作家の寺山修司は「書を捨てよ町へ出よう」と呼びかけた。私は「書を捨てよ野山に出よう」と言いたい。そこには豊かな自然があり、長い歴史があり、学びの機会がある。

学問は本来楽しいものだ。ギリシャの先哲は、白い着流しでそぞろ歩きながら学問談義をした。2本の足で歩くのは、この上なく人間らしい営みだ。歩きながら語り、登りながら考え、立ち止まって深く見つめる。そんな学問の一端が、17歳の心に届いたとしたら喜ばしい。

高大連携の詳細については、http://www.wildlife-science.org/ja/self-planning/highschool.htmlを参照されたい。

日経新聞連載新聞記事『科学の志 高校生に育む』
出典:日経新聞2016年03月27日朝刊  松沢哲郎教授連載「チンパンジーと博士の知の探検」第45回『科学の志 高校生に育む』