Animal Cognition, Volume 14, Number 6, 893-902

チンパンジーによる同種の他個体の行動を手掛かりとした見本合わせ課題:2台のコンピュータ連結で可能になった完全自動検査環境の確立

Chimpanzees' use of conspecific cues in matching-to-sample tasks: public information use in a fully automated testing environment

Christopher F Martin, Dora Biro, Tetsuro Matsuzawa

研究成果の概要

二人のチンパンジーが、それぞれのコンピュータを使って、協力して問題を解く課題に、世界で初めて成功しました。アイとアユムの母子ペアです。同じ部屋の約2m離れた場所にそれぞれのコンピュータがあります。

課題は、「見本合わせ」と呼ばれるものです。赤色と緑色と黄色の3色を問題に使いました。色見本と同じ色を合わせる課題では、たとえばモデルとして模範を示すチンパンジーAのモニター画面に赤色と緑色が映し出され、赤色のほうを選んだとします(じつは、赤を選ぶように仕向けるちょっとしたくふうがあります)。それを約2m離れたところからチンパンジーBがみています。チンパンジーBの画面に選択肢として赤色と緑色がでると、さきほどAが選んだのと同じ赤色を選ぶことができます。

同様に、漢字と漢字を合わせる課題では、一方が赤という文字を選べば、他方が赤という文字を選べます。アイもアユムも、それぞれが役割を交代して、どちらがモデルになってもよくできます。

さらに課題を複雑にして、シンボルの見本合わせをしました。つまり、一方のモデルが赤色を選ぶと、それを見ていた他方には赤と緑の漢字がでてきます。こうしても、正しく赤という漢字を選べます。つまり、他者の行為を単純に真似するだけでなく、他者の行為の意味までを深く読み取って、正しくふるまえることが実証されました。なぜなら、一方は色を選んでいるのに、他方はそれが意味する文字を選んでいるからです。なお、この最もむずかしい課題では、母親のアイはよくできますが、子どものアユムにはまだむずかしいことがわかりました。

これまでも、野生チンパンジーの研究から、「教えない教育・見習う学習」という、チンパンジーの見て真似る学習方法の存在がわかっています。子どもはおとなのようすを注意深く見ます。見て真似ようとします。一方、おとなのほうは子どもがすることを見て真似ることはほとんどありません。今回の研究から明らかになったこととして、見て学ぶ幼児期を過ごしてきたおとなのチンパンジーは、じつは他者のふるまいをよく見て、その意味を深く理解して、正しくふるまえることがわかりました。

こうした結果から二つの今後の研究の展望が実証されました。

第一に、2台のコンピュータを連結した場面を世界で初めて確立しました。これまで、二人のチンパンジーが2本のひもを同時に引っ張って協力して遠くのものを引き寄せる、というような研究はありましたが、今回は二人が離れてそれぞれのモニター画面に向かっていますから、いわば物理的にではなく知的に、相互に協力する課題です。

第二に、2台のコンピュータは原理的には同じ場所にある必要がありません。遠く離れた場所にいる二人のチンパンジーのあいだでの協力やコミュニケーションやかけひきが研究できるようになりました。実際に、すでに、アメリカのシカゴのリンカーンパーク動物園のチンパンジーと本学のチンパンジーをスカイプでつなぐ研究を始めました。

複数のチンパンジーの知的なやりとりを2台のコンピュータを連結する手法で解析する。そうした新手法が確立されたことで、まったく新しい分野の社会的知性の研究が進みます。




アブストラクト

Social animals have much to gain from observing and responding appropriately to the actions of their conspecific group members. This can in turn lead to the learning of novel behavior patterns (social learning) or to foraging, ranging, or social behavioral choices copied from fellow group members, which do not necessarily result in long-term learning, but at the time represent adaptive responses to environmental cues (public information use). In the current study, we developed a novel system for the study of public information use under fully automated conditions. We modified a classic single-subject laboratory paradigm?matching-to-sample (MTS)?and examined chimpanzees’ ability to interpret and utilize cues provided by the behavior of a conspecific to solve the task. In Experiment 1, two subjects took turns on an identity MTS task, with one subject (the model) performing the first half of the trial and the other subject (the observer) completing the trial using the model’s actions as discriminative cues. Both subjects performed above chance from the first session onwards. In Experiment 2, the subjects were tested on a symbolic version of the same MTS task, with one subject showing spontaneous transfer. Our study establishes a novel method for examining public information use within a highly controlled and automated setting.



キーワード

Chimpanzee, Social cognition, Public information use, Matching-to-sample, Symbolic representation


上写真:色-色の見本合わせ課題で奥のモデルが母親のアイ、手前の「見る側」がアユム











Animal Cognition, Volume 14, Number 6, 893-902, doi: 10.1007/s10071-011-0424-3