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Tada H, Omori Y, Hirokawa K, Ohira H, Tomonaga M (2013) Eye-blink behaviors in 71 species of primates PLoS ONE 8(5): e66018.
霊長類のまばたきはコミュニケーションツール - 71種の霊長類のまばたきの比較研究から-

Hideoki Tada, Yasuko Omori, Kumi Hirokawa, Hideki Ohira, Masaki Tomonaga

Eye-blink behaviors in 71 species of primates

PLoS ONE 8(5): e66018, doi: 10.1371/journal.pone.0066018


概要

友永雅己(ともなが まさき)・京都大学霊長類研究所准教授および田多英興(ただ ひでおき)元東北学院大学教授らの共同研究グループは、71種におよぶ霊長類が自発的に行う瞬目(まばたき)行動をビデオ記録し、その頻度などを詳細に解析しました。その結果、これらの霊長類の自発的なまばたきの頻度は、それぞれの種の平均集団サイズが大きくなるにつれて増えるという興味深い結果が得られました。集団のサイズは、社会行動の複雑さを示す指標として捉えることができます。したがって、今回の結果は、霊長類がまばたきを単に眼球表面の乾燥を防ぐなどといった生理的な理由で行っているだけではなく、積極的に社会的なコミュニケーションに利用している可能性を示しています。

この成果は、2013年5月31日(米国西海岸時間)に、米国の総合科学電子ジャーナル「PLOS ONE(プロス・ワン)」に掲載されました。

背景

まばたきに関しては近年、認知機能とまばたきの関連などが改めて研究者の間で注目されてきました。ヒトを対象とした自発的なまばたきについての研究は数多くなされているのですが、ヒト以外の動物については散発的にしか行われてきませんでした。とくに、われわれヒトの進化の隣人である、霊長類に関しては体系的な研究が全くなされていませんでした。そこで、私たちの研究グループは、動物園に暮らす71種141個体のまばたき行動を観察記録し、霊長類に見られるまばたき行動の特徴を明らかにすることをめざしました。

研究手法・成果

日本モンキーセンター(愛知県犬山市)、八木山動物園(宮城県仙台市)、千葉市動物園(千葉県千葉市)に暮らす71種の霊長類、計141個体を対象に、彼らが自由に過ごしている時間でのまばたき行動を1個体あたり5分程度ビデオに記録しました。このビデオ記録をもとに、各個体の平均瞬目率(1分間当たりのまばたき回数)やまばたきの持続時間(まぶたの動き始めから再びまぶたが開くまでの時間)などを計算しました。これらのデータをそれぞれの種ごとに集計するとともに、それぞれの種の生活サイクル(昼行性/夜行性)、生息環境(地上性/半地上性/樹上性)、平均の集団サイズ、そして平均体重などを過去の研究からピックアップし、それらの要因とまばたき指標との間の関係を分析しました。


ドリルのまばたきの例

その結果、特にまばたき頻度に着目すると、全種での平均が10.9回/分となりました。もっとも多かったのはオマキザルの仲間で29.8回、また、ゴリラも29.4回と非常に多くのまばたきをしました。一方最も少なかったのはアフリカに生息する原始的なサルの仲間のポットーで、観察時間中一度もまばたきをしませんでした。また、アジアに暮らすスローロリスなども非常に少ない頻度(0.2回)でしかまばたきをしませんでした。ちなみに、先行研究によると人間のまばたき頻度は約20回/分です。このように、種間で非常に大きなばらつきのあるまばたき頻度について先の要因との関連を検討してみました。その結果、まず、まばたき頻度は平均体重が増加するにつれて増えることが明らかとなりました(グラフ上段)。また、昼行性の霊長類の方が夜行性の種よりも圧倒的にまばたき頻度が多いことがわかりました。その一方で、生息域の影響は認められませんでした。

今回の研究で最も興味深い成果はまばたきと集団サイズの関係です。グラフの下段に示すように、平均の集団サイズ(個体数)が増えると、まばたきの頻度が増えることが明らかとなったのです。この効果は、体重の影響を差し引いても残りました(一方で体重の効果は、集団サイズの効果を差し引くと消失します)。

まばたきをしている間は外界からの情報がシャットアウトされます。人間などではまばたきの間に起こる環境変化への気づきが非常に困難であることがわかっています。また、捕食者(天敵)などに対する警戒という観点からも、群れ内での競争という点からも、まばたきの回数は少ない方が適応的です。しかし今回の結果は、群れのサイズが大きくなるとまばたきが増えるという結果になっています。このような結果を示す他の行動指標としては毛づくろい行動が有名です。毛づくろいは衛生的な側面だけでなく、個体間のコミュニケーションとして機能していることがわかっています。今回のまばたき行動の結果は、自発的なまばたきも彼らの社会的なコミュニケーションのために利用されている可能性を強く示しているものと考えられました。


左:まばたきの頻度と体重の関係。両軸は対数表示になっています。赤い線は回帰直線。
右:まばたきの頻度と集団サイズの関係。それぞれに正の相関関係が見られますが、体重の効果を考慮しても集団サイズの影響は残ります。各点は71種のデータをプロットしています。

波及効果

これまで、自発的なまばたきには、眼球表面を涙で潤すなどといった、生理的な機能以上のものはないのではないかと考えられてきましたが、霊長類が自然に過ごす場面でのまばたき行動には社会的なコミュニケーションが担われている可能性が示されました。これまでにも、視線などといった目を介したコミュニケーションに関する進化的な議論が数多くなされてきましたが、まばたきもまた、同様の機能を持っているのかもしれません。このことは、私たちのコミュニケーションやこころの進化を考える上で極めて興味深い視点を与えてくれるものと期待されます。

今後の予定

今後は、今回得られた成果をもとに、まばたきの持つであろうコミュニケーション機能をさらに詳細に検討していきたいと考えています。特に、各霊長類の実際の社会生活の中でのまばたき頻度の変動と社会行動との関連などをしらべ、今回得られた結果をさらに検証していきたいと考えています。

研究組織

田多英興(元東北学院大)、友永雅己(京都大学霊長類研究所)、大森慈子(仁愛大学)、廣川空美(岡山大学)、大平英樹(名古屋大学)

本研究成果は、京都大学霊長類研究所共同利用研究の一環として行われました。また、科学研究費補助金基盤研究(S)「海のこころ、森のこころ──鯨類と霊長類の知性に関する比較認知科学─」(研究代表者:友永雅己)の援助を受けました。