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初期人類への最初の一歩:なぜわれわれの祖先は2足歩行になったのか、チンパンジー研究から解明されたこと


Susana Carvalho, Dora Biro, Eugenia Cunha, Kimberley Hockings, William C. McGrew, Brian G. Richmond, Tetsuro Matsuzawa

Chimpanzee carrying behaviour and the origins of human bipedality

(チンパンジーの物を運ぶ行動にみるヒトの二足歩行の起源)

Current Biology, Volume 22, Issue 6, R180-R181, doi: 10.1016/j.cub.2012.01.052



一人のおとなの男性が、民家の軒先から3つのパパイヤを盗った。両手と口にもって持ち運んでいる。 今回の研究から結論できるのだが、資源が限られていて他者との競合がきついとき、チンパンジーは立って2足で歩くことが多いことが分かった。そのほうが一度にたくさん運べるからである。


研究成果の概要
今回の研究から結論できることは次のとおりである。 限られた資源を独占するために、1回にできるだけ多くの資源を持ち運ぼうとして、われわれの祖先は4足ではなく立ち上がって2足で歩くようになった、と考えられる。

この研究論文は、3月20日公表の米国学術誌カレント・バイオロジーに掲載された。この研究は、食物資源が限られているときに、チンパンジーたちがどのようにふるまうかを分析したものである。これによって初期の人類ないし人類に近い祖先が、どのようにして2足歩行をするようになったかという過程が解明できる。

今回の観察事実にもとづくと、チンパンジーが4足歩行ではなくて、立ち上がって2足歩行するのは次のようなばあいである。つまり、ある資源を他のなかまにとられないように独占しようとするときである。とくにその資源に限りがあるときや、その貴重な資源にいつ再度でくわすかわからないようなときに、独占しようとして2足で立って持ち歩く。手が自由になる分だけたくさん持ち運べるからだ。

日英米ポルトガルの4か国の国際チームの研究成果である。英国ケンブリッジ大学のスザーナ・カルバーリョ博士、英国オックスフォード大学のドラ・ビロ博士、日本の京都大学霊長類研究所の松沢哲郎教授の3名が中心である。その結論によると、初期人類は、限られた資源が必ずしもいつも手に入るわけではない、つねに変化する環境で暮らしていた。
そうした環境への適応を永年にわたって繰り返すうちに、直立2足歩行が常態化し、それにつれて形態そのものも変化した。つまり、食物その他の資源を争って手に入れる環境のもとで2足歩行に有利な自然選択が働いた、と考えられる。

ケンブリッジ大学人類学・考古学部のウィリアム・マグルー教授によれば、「人間の進化の鍵となる直立2足歩行は、今回の論文が示唆するような、物を持ち運ぶ戦略の結果であり、それが永年にわたって続くことで人間独自の進化の方向に導かれた」という。

化石の証拠がないので、これまで初期人類がいつごろから直立2足歩行をしていたのかについては議論が分かれていた。広く信じられていることとしては、気候変動によって森林が後退し、開けた場所を長距離移動せざるをえなくなった、と考えられている。

しかしながら、今回の新たな発見は、もう一段掘り下げた説明を可能にしている。気候変動による森林の後退にともなう長距離移動が、とくにどのような選択圧がかかって、それが姿勢や移動の形態を変えるようになったのかを明らかにした。

国際チームの結論は、最大限に効率よく貴重な品を持ち運ぶために直立2足歩行になったという、直立2足歩行の運搬起源説、である。2足歩行そのものは現生の大型類人猿もすることなので、国際チームは、チンパンジーの行動を調べてどういうときに2足歩行をするのかを明らかにしようとした。チンパンジーは、いつ、なぜ、2足歩行をするのかという研究である。

2つの研究成果を具体的に報告している。最初の研究は、ギニアのボッソウ森林につくった京都大学式の「野外実験場」での研究成果である。この野外実験場で、2種類のナッツを異なる割合で用意して、チンパンジーに提示してみた。アブラヤシは、ボッソウではどこにでもあるナッツだ。もうひとつのクーラ・エデュリスのナッツは、ボッソウにはないものなので、次はいつ手に入るかわからない貴重な品だ。

チンパンジーの行動を、以下の3条件で調べた。
(a) アブラヤシだけが手に入る条件(つまり基準となる対照条件)
(b) アブラヤシに加えてクーラがほんの少量ある条件(7:2の比率)
(c) アブラヤシよりもクーラがたくさんある条件 (2:7の条件)
である。

クーラがほんの少量ある条件のもとで、チンパンジーは一回にたくさんのクーラを運んだ。同様に、クーラがたくさんあるときは、アブラヤシはまったく無視してクーラだけを運んだ。まず明らかに、チンパンジーにとってクーラは大好きなナッツで、それをめぐる競争も苛烈になることがわかる。

そうした競合場面では、チンパンジーが2足になる頻度が通常(アブラヤシのばあい)の4倍に増加した。
2足歩行によってこの貴重な資源をよりたくさん運ぶことができたのは当然だが、さらに、一回の運搬でできるだけたくさん運ぼうとしていることも明白になった。自由になった手だけでなく、口までも使う。

第2の研究は、英国オックスフォードブルックス大学のキムバリー・ホッキングス博士(Dr. Kimberley Hockings)が主導したものである。彼女の14か月に及ぶボッソウでの調査中に生じたチンパンジーの畑あらしの記録資料を解析した。人間の畑の作物を盗むので、競合は激しい事態である。その結果、観察事例のうちの35%のばあいで、直立2足歩行ないしそれに類似の行動が見られた。このばあいも、1回の運搬で、貴重な品をできるだけたくさん運ぼうとしていることが明白だった。

研究の結論で言えば、まずチンパンジーはクーラのナッツなどを貴重な限りある資源だと思っている。そうした資源が乏しくて限りがあり、「来たもの順で、最初にきたものが勝ち」というようなばあいには、チンパンジーは直立2足になりやすい。なぜならそのほうが貴重な品を一度にたくさん運べるからである。

われわれ人類の初期の祖先にとって、気候変動と急速な環境変化によって、予測できない貴重な資源に遭遇することが多くなったと考えられる。そのとき直立2足歩行するもののほうが得だった。一回の運搬でより多くを運ぶためには、形態学的な変化をともなったもののほうが有利に働いた。こうして、直立2足歩行をする選択圧が働くようになった。世代を重ねていく中で、直立2足歩行が常態化していった、と考えられる。

研究の詳細は米国科学誌カレントバイオロジーの3月20日版(標準時)で公表された。以下を参照されたい。
http://www.cell.com/current-biology/


アブストラクト

Why did our earliest hominin ancestors begin to walk bipedally as their main form of terrestrial travel? The lack of sufficient fossils and differing interpretations of existing ones leave unresolved the debate about what constitutes the earliest evidence of habitual bipedality. Compelling evidence shows that this shift coincided with climatic changes that reduced forested areas, probably forcing the earliest hominins to range in more open settings [1]. While environmental shifts may have prompted the origins of bipedality in the hominin clade, it remains unknown exactly which selective pressures led hominins to modify their postural repertoire to include a larger component of bipedality [2]. Here, we report new experimental results showing that wild chimpanzees walk bipedally more often and carry more items when transporting valuable, unpredictable resources to less?competitive places.




Figure 1. Bipedal transport of items by wild chimpanzees. (A) Adult male carries both anvil and hammer stones (anvil in left hand, hammer in left foot) and Coula edulis nuts (in mouth and right hand) during an experimental nut-cracking session, before depositing items and starting to crack nuts. Inset shows two species of nuts presented at outdoor laboratory (left: Elaeis guineensis, right: Coula edulis) (see also Supplemental Movie S1). (B) Adult male carries three papayas (one in each hand and one in mouth) during crop-raiding (see also Supplemental Movie S2).

Supplemental Data
Document S1. Experimental Procedures and Two Figures

Supplemental Movie S1: Bipedal transport of nuts and stone tools

Video clip shows bipedal transport of nuts and stone tools by adult male chimpanzee at Bossou's outdoor laboratory. He first gathers up a whole pile of 20 Coula edulis nuts, using both hands and mouth, then walks bipedally to set of stone tools provided, where he first selects stone anvil (carried in left hand) then stone hammer (carried in left foot). He then continues to walk bipedally, moving to different spot, where he stops to process nuts and to consume their kernels. While walking bipedally during final stage of transport, he uses three limbs, as well as mouth, to carry nuts and stone tools.

Supplemental Movie S2: Transport of three papayas by adult male chimpanzee at Bossou

Video clip shows transport of three papayas by adult male chimpanzee at Bossou. Fruits were collected from small orchard in village and transported back to forest. Items are carried in both hands and mouth. Transport includes quadrupedal, tripedal and bipedal locomotion, with 17 of 38 steps being bipedal.

論文PDF
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