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Imura T, Tomonaga M (2013) Differences between chimpanzees and humans in visual temporal integration Scientific Reports 3: 3256
チンパンジーよりもヒトで優れた時空間的な視覚情報処理

Tomoko Imura, Masaki Tomonaga

Differences between chimpanzees and humans in visual temporal integration

Scientific Reports, 3: 3256, doi: 10.1038/srep03256


概要

京都大学霊長類研究所の 伊村 知子(いむら ともこ/現在:新潟国際情報大学講師)特定助教および友永 雅己 (ともなが まさき)准教授の共同研究グループは、ヒトに特徴的な視覚認知能力の1つである、断片的な情報を統合して全体的な形を知覚する「体制化」のはたらきに着目し、進化の隣人、チンパンジーとヒトを対象に、時間的・空間的に細切れの情報を統合する能力を比較しました。その結果、時空間的な視覚情報の統合能力についても、ヒトの方がチンパンジーよりも優れていることが示されました。

この成果は、2013年11月19日(英国時間)に、英国の総合科学誌ネイチャーの姉妹誌「Scientific Reports」に掲載されました。

背景

たとえば、何かが扉の隙間の向こうを横切った時のように、一度に全体の姿が見えず、部分的な視覚情報しか得られない場合でも、われわれは部分的な情報を時間的・空間的に統合することで全体の形のまとまりを見ることができます。このことは当然のこととして考えられがちですが、ヒト以外の霊長類や鳥類では、ヒトには全体的な形のまとまりとして見える場合にも、まとまりを構成する一つ一つの局所的な形の方を見ていることが繰り返し示されてきました。そこで、私たちの研究グループは、進化の隣人であるチンパンジーを対象に、時間的・空間的な統合の能力を調べることにより、ヒトの視覚認知の特徴を明らかにすることをめざしました。

研究手法・成果

京都大学霊長類研究所の4個体のチンパンジーと8名の成人を対象に、線画の認識について調べる課題をおこないました。課題は、1つの線画が画面の左から右へ動きながら提示された後、続いて提示される3つの線画から、先の線画と同じものを選ぶというものでした(図1)。


【図1. 3つの線画から先に見た線画と同じものを選択するチンパンジー(撮影:伊村 知子)】

【図2. 線画の全体が見えるVisible条件(左)と、一度に一部分しか見えないSlit条件(右)】

まず、先に提示される線画の全体が見える条件(Visible 条件)でチンパンジーが線画を正確に認識できることを確かめた後、次に、線画が細長いスリットの後ろで動いているために一度に一部分しか見えない条件(Slit条件)で線画の認識能力を調べました(図2)。Slit条件で線画を認識するためには、線画の部分的な情報を時間的・空間的に統合する必要がありました。そこで、Slit条件における線画の認識の能力について、ヒトとチンパンジーの正答率を比較しました。

その結果、Visible条件では全てのチンパンジーが90%以上の正答率を示したことから、チンパンジーも動いている線画を正確に認識できることがわかりました。一方、Slit条件では、チンパンジーよりもヒトの方が著しく高い正答率を示しました(ヒト:94.7%、チンパンジー:55.7%)。さらに、このような種差がチンパンジーにとって馴染みのない線画を用いたことにより生じたのではないことを確かめるために、意味を持たない図形(無意味図形)を用いてSlit条件の線画の認識を調べたところ(図3)、再び、チンパンジーよりもヒトの方がはるかに高い正答率を示しました(ヒト:88.4%、チンパンジー:45.4%)。


【図3. 無意味図形を用いた課題に挑戦するチンパンジー(撮影:伊村 知子)】

このことから、線画の部分的な情報を時間的・空間的に統合する能力は、チンパンジーよりもヒトの方が優れていることが確かめられました。

これまで、ヒトとチンパンジーの視覚機能には多くの類似点があると考えられてきましたが、今回の研究成果から時間的・空間的に細切れの視覚情報を1つのまとまりとして統合して見るはたらきは、ヒトで特に優れている可能性が示されました。こうした基礎的な視覚のはたらきに見られるヒトの特異性もまた、私たちのこころの進化を考える上で極めて重要な示唆を与えてくれるものと期待されます。




なお、本研究成果は、伊村知子が、京都大学霊長類研究所比較認知発達(ベネッセコーポレーション)研究部門に特定助教として在籍していた期間に得られたものです。

また、科学研究費補助金 基盤研究(S)「海のこころ、森のこころ─鯨類と霊長類の知性に関する比較認知科学─」(課題番号:23220006)、特別推進研究「認知発達の霊長類的基盤」(課題番号:2002001)などの研究資金の援助のもと本成果を得ることができました。


関連報道情報  (※京都大学霊長類研究所のWEBサイトを離れます)



Abstract

Humans have a superior ability to integrate spatially separate visual information into an entire image. In contrast, comparative cognitive studies have demonstrated that nonhuman primates and avian species are superior in processing relatively local features; however, animals in these studies were required to ignore local shape when they perceived the global configuration, and no studies have directly examined the ability to integrate temporally separate events. In this study, we compared the spatio?temporal visual integration of chimpanzees and humans by exploring dynamic shape perception under a slit-viewing condition. The findings suggest that humans exhibit greater temporal integration accuracy than do chimpanzees. The results show that the ability to integrate local visual information into a global whole is among the unique characteristics of humans.