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Hattori Y, Tomonaga M, Matsuzawa T (2013) Spontaneous synchronized tapping to an auditory rhythm in a chimpanzee Scientific Reports

Yuko Hattori, Masaki Tomonaga, Tetsuro Matsuzawa

Spontaneous synchronized tapping to an auditory rhythm in a chimpanzee

チンパンジーにおける音のリズムに対する自発的な同調タッピング

Scientific Reports 3, Article number: 1566


本研究成果は、2013年3月28日に、英国の総合科学誌ネイチャーの姉妹誌「Scientific Reports」に掲載されました。


『リズム音が提示されるとそれに同調してタッピングするアイ (自由な速度でタッピングできるのですが、音のリズムに合わせて、徐々に、はっきりと同期するようになります)』

概要

ダンスや合唱など、音楽のリズムに合わせて大勢が体の動きを同調させる行為は、世界中の多くの文化で見られており、同調行動はヒトの社会的なつながりを強めるために重要な働きをしていることが示唆されています。こうした行為ができるのは、ヒトがリズムに対して自発的に同調する能力があるために可能になるのですが、本研究では、チンパンジーも音のリズムに対して自発的に行動を同期させることを明らかにしました。電子キーボードを複数回タッピングさせることを訓練した後、あるリズムをもった音刺激(刺激間間隔:600ms)を聞かせると、リズムに合わせてタッピングをすることがわかりました。この結果は、ヒトの非言語コミュニケーションとしての同調行動がどのように進化してきたのかを探る上で重要な手掛かりになると考えられます。

背景

世界中の多くの文化で、ダンスや合唱といった行動を同期させる行為が取り入れられており、それらはグループ内のつながりや協力を高めることが示唆されています。ヒトは、生後早い段階から音楽のリズムを認識することが知られていますが、こうした能力がヒトの進化的過程の中でどのように獲得されてきたのかについてはあまりわかっていませんでした。そこで、ヒトと系統発生的に最も近い種であるチンパンジーを対象に、自分の動きを音のリズムにあわせて自発的に調整するのかを実験的に調べました。

研究手法・成果

京都大学霊長類研究所のチンパンジー・アイ、アユム、クレオを対象に実験を行いました。まず、光ナビゲーション機能のついた電子キーボードを用いて、光っているキーを30回タッピングするように訓練しました(図1)。光のナビゲーションは、キーを叩くとすぐに次のキーへ切り替わるため、それによってチンパンジーのタッピングのテンポが影響されることはありません。訓練の後、タッピングの最中に、様々なテンポの音刺激を呈示し、タッピングのリズムが音刺激のリズムに同調するのかを調べました。その結果、3個体中アイのタッピングにおいて、音刺激(刺激間間隔600ms)への同調が確認されました(図2)。リズムがランダムな音刺激を呈示した場合には、こうした同調が見られなかったことから、個々の音に反応していたのではなく、一定のテンポをもつリズムに反応していたことが示唆されます。これまで、ヒト以外には、複雑な音声学習をする鳥類でしか確認されていませんでしたが、チンパンジーでも共通した能力があることが確認されました。


図1.電子キーボードをタッピングするアイ

図2.様々な音刺激を呈示した際のアイのタッピングの生起頻度

波及効果

生物としてのヒトの特徴の一つに、高度に発達した社会性があげられます。多くの仲間と強いつながりをきずく手段を、進化の過程でヒトはどのように獲得してきたのか。社会性の進化的基盤を探る枠組みにおいて、本研究は1)同調行動に着目し、2)チンパンジーにおいてヒトと共通した同調傾向を実験的に確認したという点で、革新的だと言えるでしょう。私たちヒトのもつ社会性の進化的起源を探る上で新しい見解を与えた研究として位置づけることができます。

今後の予定

ヒトと同様にチンパンジーも高度な社会性をもつ種として知られていますが、コミュニケーションのとり方や社会のもつ性質など、様々な点で違いがあることもわかっています。今後は、そうした相違点に着目しつつ、同期現象が支える社会性の進化的基盤の解明を目指したいと考えています。

アブストラクト

Humans actively use behavioral synchrony such as dancing and singing when they intend to make affiliative relationships. Such advanced synchronous movement occurs even unconsciously when we hear rhythmically complex music. A foundation for this tendency may be an evolutionary adaptation for group living but evolutionary origins of human synchronous activity is unclear. Here we show the first evidence that a member of our closest living relatives, a chimpanzee, spontaneously synchronizes her movement with an auditory rhythm: After a training to tap illuminated keys on an electric keyboard, one chimpanzee spontaneously aligned her tapping with the sound when she heard an isochronous distractor sound. This result indicates that sensitivity to, and tendency toward synchronous movement with an auditory rhythm exist in chimpanzees, although humans may have expanded it to unique forms of auditory and visual communication during the course of human evolution.