撮影:平田明浩.提供:毎日新聞社
クロガネモチの木をかじるアユム

100年前,野生チンパンジーはアフリカの熱帯林とその周辺に約100万人いたと推定されている。それが87年の推計では20万人,97年には10万人と見積もられた。分布密度と残っている森林面積から割り出された数値なので,正確とは言えない。しかし,その数が減っており,しかも近年になって急速に減っていることは間違いない。

生息数が減っている最大の原因は森林伐採だ。私は過去15年間の調査で,ギニア,リベリア,コートジボワールという西アフリカの3国を見てきたが,熱帯森がどんどん減っていることを実感する。調査地ボッソウは,ちょうど3国の国境地帯ニンバ山脈のすそに位置している。3国の首都はいずれも海沿いにある。従って,首都から調査地までそれぞれの国を内陸部へと縦断して旅することになり,一本の軌跡に沿って国の概略を見ることができる。

ギニアの首都コナクリからボッソウまで約1000キロの道沿いに,「熱帯林」「ジャングル」という言葉から想像するような森はまったくない。延々と続く人々の暮らしがあり,重要な食用源であるアブラヤシの木が点在する耕地が広がり,しょぼしょぼとした丈の低い森しか残っていない。

コートジボワール側は道路の舗装が進んでいで,それが伐採に拍車をかけている。直径2メートルほどもある巨木が切り出され,輪切りにされ,大きなトラックに積み込まれる。そうした車を道沿いで何台も目撃した。森林資源は外貨獲得の手段だ。ちょうど東南アジアの熱帯林を,主に日本が消費しているように,西アフリカの森を主にEU(欧州連合)が消費している。

生息数減少の第2の理由一は,「森の肉」と呼ばれる野生の獣肉の売買(ブッシュミート・トレード)である。リベリアの首都モンロビアの市場で,サルの頭が4個ひと山で売られていた。換算すると1個50円くらいだ。現地ではけっこう高額だが,家畜の肉と違って森の肉はおいしいのだそうだ。現地の人々が父祖から受け継いだ食文化の一部をいちがいに否定はできない。しかし,舗装道路が森の奥まで延びたことが「森の肉」を商品化した。大量にとって大都市の市場で高く売りさばくルートができた。

ニンバ山は世界遺産に指定されている。その山中に入ってみると,いたるとこるに密猟のワナがしかけられており,密猟者のキャンプ地跡がある。サルやシカの仲間が対象なのだが,チンパンジーも針金のワナにかかって手足を失う者が多い。チンパンジーだけではない。ゴリラもオランウータンも,同様に絶滅の危機にひんしている。

11月15日から17日まで,JR岡山駅西口前の国際交流センターで,[アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い」(SAGA)が開催される。研究者だけでなく,動物園関係者,自然保護活動家,メディアや一般の方々が参加する。事前登録も入場料も不要。「進化の隣人」,大型類人猿に関心を持つ人々が彼らの将来をともに考える。野生チンパンジー研究の第一人者ジェーン・グドールさんも参加する。詳細はインターネット https://www.saga-jp.org/をご覧いただきたい。

この記事は, 毎日新聞 連載"松沢哲郎のチンパンジーは進化の隣人" 2001年11月13日の、 『大型類人猿を支援する集い』を転載したものです。