年末・年始をアフリカの森で過ごした。ギニアの奥地、ボッソウという村の近くだ。

十二月のわずか一ヵ月のあいだに五人のチンパンジーが亡くなった。五十歳を超えたおばあさん二人。人間でいえば八十歳近い年齢に相当する。一歳の男の子と二歳半の女の子の、あかんぼうが二人。そしてなぜか十歳の屈強な若者。群れの全員が胸の底から出るような咳をしていた。呼吸器系の感染症が疑われる。けっきょく、年寄りと子どもにしわよせがいって十九人の群れが十四人になった。約四分の一が死んだことになる。

アフリカ全体で、百年前には約百万人のチンパンジーがいた。それが現在では十―二十万人に減った。残されている森の広さと生息密度から推定した値である。原因は主に三つある。第一に、人間が増えて、チンパンジーが住む森を伐採した。焼いて、畑にして、トウモロコシや芋を植える。あるいは木材を建築用材や紙資源として売る。第二は狩猟だ。ボッソウの村人はチンパンジーをトーテムとして崇めるが、よその土地では撃ち殺して食べる。一般に、森にすむ獣や鳥は、ただで手に入る貴重な食料だ。最近では、森の奥まで入った伐採道路を利用して都会の市場で高く売るビジネス、「ブッシュ・ミート・トレード(森の肉の交易)」、が成立している。第三が病気である。ヒトとチンパンジーのDNAの塩基配列は約1・2%しか違わない。すべての病気が共通する。エイズ、エボラ、ポリオ、肝炎など、ほかの動物には伝染しないが両者は相互に感染する。国境に位置するボッソウ村には、リベリア・コートジボワールといった近隣諸国の難民が入り込み、人口が三千人に膨れ上がった。昨年夏にはコレラが流行って村人四人が亡くなった。今回の病気も人間からの感染を疑っている。

では、チンパンジーを守るにはどうしたらいいか。チンパンジーが生きるためには、何よりもまず、暮らしの場である森が必要だ。ボッソウの森にある約六百種類の多様な草木のうちの約二百種類を彼らは食べている。とくに果実が好きだ。新芽も若芽も食べる。逆に、一般にあまり意識されていないが、じつは森が生き残るためにはチンパンジーが必要だ。チンパンジーは主要な「種子散布者」である。つまり彼らが果実を食べ、その糞が森の各地にまき散らされて、熱帯林の多様性が守られている。消化管を一度通った果実は、発芽率がよくなることもわかっている。

「緑の回廊」と名づけた植林事業を、在ギニア日本大使館と外務省の支援を得て、一九九七年から始めた。チンパンジーの糞を森で採集し、育てた苗木をサバンナに植えて、森を拡張する試みだ。去年は七千本植えた。今年も七千本の苗木を育てている。一本の苗木を育てるには多くの労力と時開がかかる。しかし低所得の国なので一本の単価は百円くらいだ。多くは枯れたり、野火で焼かれたりする。でも、生き残った木々で小さな森が再生しつつある。ボッソウから近くのニンバ山を森でつなげる計画で、約五万本の植林が必要だ。ぜひご協力をお願いしたい(郵便振替口座番号00830-1-55432、口座名「緑の回廊」)。

この記事は,京都新聞 連載"現代のことば" 2004年02月05日の、 『チンパンジーの死と「緑の回廊」』を転載したものです。