わが国の南西端に位置する亜熱帯の島の自然を垣間見た。西表島である。霊長類学と、大型の絶滅危惧種を研究するワイルドライフサイエンス分野の研究者を育成する「京大リーディング大学院」の実習候補地の下見で訪れた。

カヤックを操ってマングローブ林の水際をいく

那覇から飛行機で石垣島に渡り、フェリーで西表島の上原港に着いた。近くの高台に、琉球大学熱帯生物圏研究センターと宿泊所がある。先にきていた京都大学の教員と大学院生に合流し、島を見て回った。琉球大副学長の西田睦さんが、自ら案内してくださった。

西田さんとは、大学の枠を超えた国立大学研究所の共同利用を進める協議会での縁である。今年のノーベル賞を受賞した東大宇宙線研究所長の梶田隆章さん、京大霊長類研究所長のわたし、東大大気海洋研究所長だった西田さんの順で会長を務めた。西田さんは魚類が専門で、リーディング大学院の発足時に特任教授になっていただいた。

研究用の農地にはシークヮーサーの実がなっていた。頭上を国の特別天然記念物、カンムリワシの幼鳥が飛ぶ。黒くて大きなものが飛んできて木に止まった。カラスかと思ったらヤエヤマオオコウモリだった。翼を広げると60センチほどにもなる日本最大のコウモリだ。

12月が近いのに、気温は28度。本土ではすっかり冬仕舞をしているが、大小のチョウが蜜を吸い交尾をしていた。

星砂の浜の海に入ってシュノーケリングをした。熱帯魚とサンゴ礁が見られる。国際会議のおり、メキシコのバハ・カリフォルニアや、ハワイ諸島の海に潜ったことがある。その美しさは今も忘れられない。でも手軽さを考えるとそう負けていないと思う。

翌日は2人乗りカヤックに乗って、マングローブ林を観察した。汽水域といって淡水と海水が交わる場所にさまざまな生物がいる。熱帯のボルネオのマングローブ林を歩きまわったことがあるが、ここは亜熱帯だ。シイやカシの温帯の照葉樹林があって、そこに熱帯の多様な植物が入り込んでいる。カヤックを降りて西田川を遡り、踏み跡をたどってサンガラの滝まで往復した。

施設長の渡辺信さんが観測用ドローンを操作して見せてくれた。飛ぶのを見るのは初めてだ。上空高く舞い上がり、ひゅーんと飛んでいく。圧巻である。4キロメートル先まで飛べるという。

撮影した映像はリアルタイムで手元の端末に届く。GPS機能が付いており、撮影が終われば手元に戻ってきて、目の高さでホバリングしている。ひょいとつかんでおしまい。今後は空撮で見る亜熱帯の森と生物の研究が著しく進むだろう。

夜は白浜や船浦の港に足をのばした。夜光虫がいる。海面を棒で波立てると、ぼおっと光った。

あまり意識されないが、日本はマダガスカルやボルネオと並ぶ、先進国唯一の生物多様性ホットスポットだ。国際的環境保護団体コンサベーション・インターナショナルがそう認定している。

「日本列島弧」という言葉があるように、北方領土から北海道、本州、四国、九州、さらに琉球列島へと伸びる南北約3000キロメートルに及ぶ島国である。知床・白神山地・小笠原諸島・屋久島と、世界自然遺産が4つある。列島の最南部、石垣島と西表島などの島々は八重山列島と呼ばれる。

世界でここにしかいない「固有種」が多い。ニホンザルは日本の固有種である。沖縄のヤンバルクイナ、奄美諸島のアマミノクロウサギ、西表島のイリオモテヤマネコは、その島にしかいない固有種の代表だ。地域の群れが消滅すると、種そのものがいなくなる。

ドイツやフランスやイギリスといった西欧先進国に固有種はほとんどいない。同じ生き物が隣国にもいる。すでに開発が進んでいて森や手つかずの自然が少ない。そもそも緯度が高くて生物多様性に乏しい。

京大リーディング大学院では、フィールドワークの豊富な体験をもって、博物館や動物園や国際機関で働く人材を育てようとしている。来年から西表島での実習が加わるだろう。大学院の詳細はhttp://www.wildlife-science.org/

日経新聞連載新聞記事『亜熱帯 西表島の自然見る』
出典:日経新聞2015年12月13日朝刊  松沢哲郎教授連載「チンパンジーと博士の知の探検」第30回『亜熱帯 西表島の自然見る』