Proc Natl Acad Sci U S A. published ahead of print December 5, 2011

チンパンジーにも「黄色い」声!?-チンパンジーにおける共感覚的知覚の発見-

Visuoauditory mappings between high luminance and high pitch are shared by chimpanzees (Pan troglodytes) and humans.

Vera U. Ludwig, Ikuma Adachi, Tetsuro Matsuzawa

研究の概要

 「黄色い声」という言葉が日本語にはある。また、スペイン語には「白い声」、ドイツ語には「暗い声」という表現がある。このように、声に対して色を表す言葉で修飾することは広く見られる。また面白いことに、その多くが声の高さを形容するものである。こうした表現からもわかるように、我々ヒトは、高い音には明るい色を、低い音には暗い色を結びつける傾向がある。このような、本来は関係のない、視覚情報の特定の特徴(eg. 色)と特定の音声の特徴(eg. 音の高さ)の間に、対応付けをおこなうことを共感覚的知覚と呼ぶ。この対応関係は、自然界に実際に存在するわけではないにもかかわらず、多くの人に共有された知覚様式であることはとても興味深い。言語学者や心理学者たちを中心に、この共感覚的知覚がなぜ生じるのかについて、大別して二つの可能性が議論されている。(1)(おそらく)生得的な脳の神経間の結合により引き起こされる知覚様式、(2)言語や文化との相互作用により獲得された知覚様式、の二つの可能性である。

 本研究では、言語を持たないチンパンジーを対象にこの共感覚的知覚が生じるのかを分析することで、上記の議論に新たな知見を与えるものである。まず、訓練では白色か黒色の四角が画面に一瞬だけ呈示され(見本)、その後両方の色の四角が選択肢として呈示された(図1)。被験体は、最初に見た色を選択肢から正しく選ぶことで報酬を得ることができた。この課題を被験体が学習したのちに、テストに移った。テストでは、見本に200ms先行し、高・低いずれかの聴覚刺激(高ピッチ音:1047Hz、低ピッチ音:174Hz)を呈示した。もし、チンパンジーがヒトと同様に高い音に対し明るい色を、低い音に対し暗い色を連想するのであれば、その後の選択場面において、当該の明るさに対し、より注意が向きやすくなると考えられる。実験の結果、同手続きでテストしたヒトは、白色が正解時に高音を聞いたとき、および黒色が正解時に低音を聞いたときに(一致条件)、そうでない組み合わせ(不一致条件)よりも反応時間が短くなった。一方でチンパンジーにおいては、反応時間には条件間に差が認められなかったものの、不一致条件時に一致条件時よりも正答率が低下することがわかった(図2)。すなわち、両種ともに、共感覚的知覚(音の高さと明るさの対応づけ)をおこなうことがあきらかになった。

 これにより、音の高さと明るさの間の共感覚的知覚は、言語や文化との相互作用を必要とせず、脳の神経感の結合によってもたらされるものであり、さらに、その起源がヒトとチンパンジーが進化の道を別った500~600万年前にまで遡る可能性が示唆された。ただし、本結果は共感覚的知覚に対する言語の影響を否定するものではなく、今後様々な共感覚的知覚を比較分析することで、言語の進化の道筋がより明らかになるであろう。そのための方法を示した上でも本研究は非常に重要である。



図1: 各試行の流れ


図2: ヒトとチンパンジーの成績。上段に誤答率、下段に反応時間


課題を行うヒトとチンパンジー
 
Abstract

Humans share implicit preferences for certain cross-sensory combinations; for example, they consistently associate higher-pitched sounds with lighter colors, smaller size, and spikier shapes. In the condition of synesthesia, people may experience such cross-modal correspondences to a perceptual degree (e.g., literally seeing sounds). So far, no study has addressed the question whether nonhuman animals share cross-modal correspondences as well. To establish the evolutionary origins of cross-modal mappings, we tested whether chimpanzees (Pan troglodytes) also associate higher pitch with higher luminance. Thirty-three humans and six chimpanzees were required to classify black and white squares according to their color while hearing irrelevant background sounds that were either high-pitched or low-pitched. Both species performed better when the background sound was congruent (high-pitched for white, low-pitched for black) than when it was incongruent (low-pitched for white, high-pitched for black). An inherent tendency to pair high pitch with high luminance hence evolved before the human lineage split from that of chimpanzees. Rather than being a culturally learned or a linguistic phenomenon, this mapping constitutes a basic feature of the primate sensory system.

当記事は、京都大学WEBサイトの記事「チンパンジーにも「黄色い」声!?-チンパンジーにおける共感覚的知覚の発見-(2011年12月6日掲載)」の内容を転載したものです。
Ludwig VU. , Adachi I, Matsuzawa T (2011) Visuoauditory mappings between high luminance and high pitch are shared by chimpanzees (Pan troglodytes) and humans. Proc Natl Acad Sci U S A. published ahead of print December 5, 2011