PLOS ONE 10(7): e0130682

ヒトもチンパンジーも自分のリズムに近いリズム音を聞くと自発的に引き込まれる

Distractor Effect of Auditory Rhythms on Self-Paced Tapping in Chimpanzees and Humans

Yuko Hattori, Masaki Tomonaga, Tetsuro Matsuzawa

概要

歩いている時に音楽が聞こえてくると自然に歩調をあわせてしまうといった様に、私たちは特に意識しなくても音のリズムに自分の動きをあわせてしまう傾向をもっています。ダンスや合唱などヒトの音楽活動もこうした基盤にささえられていると考えられますが、本研究では、ヒトとチンパンジーはリズム音に対して類似した傾向を示すことを明らかにしました。電子キーボードを複数回タッピングすることを訓練した後、様々な速さのリズム音を聞かせると、自分のタッピングの速さ(音を聞いていないときに行ったタッピングの速さ)に近いリズム音を聞いた時に、その音にあわせてタッピングする傾向があることがわかりました。リズム音に対して自発的に動きをあわせる傾向は、ヒトが複雑な話し言葉を使えるようになるずっと以前の、チンパンジーとの共通祖先の段階で既に獲得されていたことが示唆されます。

1.背景

音楽に合わせて歌ったり踊ったりする、という行為は世界中の多くの文化で取り入れられており、ヒトがグループ内でのつながりや協力を高めるために進化させたユニークなコミュニケーション方法だと言われています。また、ヒトは生まれて早い時期から音楽のリズムを認識するなど、非常に音のリズムに対して感受性が高いことが知られていますが、どういった進化的起源を経てそうした能力が獲得されてきたのはあまりよくわかっていません。そこで、ヒトと系統発生的に最も近い種であるチンパンジーを対象に、音のリズムに対する反応をヒトと直接比較しました。

2.研究手法・成果
京都大学霊長類研究所のチンパンジー・アイ、アユム、パルを対象に実験を行いました。まず、光ナビゲーション機能のついた電子キーボードを用いて、1オクターブはなれた2つのキーを30回タッピングするように訓練しました(図1)。
光のナビゲーションは、キーを叩くとすぐに次のキーへ切り替わるため、それによってチンパンジーのタッピングのテンポが影響されることはありません。その際に、それぞれの自発的なタッピングの速さとばらつきをまず調べました。
タッピングのテンポはヒトとチンパンジーで類似しており、1つのキーから次のキーをたたくまでに、およそ400ms ~600ms かかることがわかりました。しかしながら、チンパンジーのタッピングはテンポの変動が大きい一方で、ヒトは安定したテンポで反復運動(タッピング)を行う事がわかりました。 訓練の後、タッピングの最中に、様々なテンポの音刺激を呈示し、どのテンポの音に対して、タッピングのタイミングを合わせるのかを調べました。
その結果、自分のタッピングの速さに近いテンポのリズム音を聞いた時に、ヒトもチンパンジーも自発的に音のリズムに合わせてタッピングする傾向があることがわかりました。
3.波及効果
音のリズムに対する同調行動は、複雑な音声コミュニケーション能力と関係があるかもしれないという仮説が唱えられていますが、本研究は、ヒトがそうした複雑な音声コミュニケーションを行うずっと以前から、音のリズムに対する感受性をもち、それに対して敏感に反応していたことを示唆しています。 複雑な音声コミュニケーションをもたないチンパンジーで類似した傾向がみられたという本研究の結果は、リズムに対する感受性や反応は、霊長類の中で発声能力以外の要因で発達していった可能性を示しています。
4.今後の予定
ごく最近まで、音楽はヒトだけが行うユニークな活動であり、その基盤となる能力もヒトが文化の中で獲得するものと考えられてきました。しかし近年、ヒト以外の動物にも共通した能力が存在するのかどうか、また他の霊長類種とヒトを比較することでどういった進化的過程を経て音楽を支える基盤が獲得されてきたのかなど、その進化的な起源への注目が高まっています。集団の結束を高め、様々な感情を共有できる音楽というコミュニケーションが、どのように進化してきたのか、今後さらにその認知的な基盤の進化を明らかにしていきたいと思います。
アブストラクト

Humans tend to spontaneously align their movements in response to visual (e.g., swinging pendulum) and auditory rhythms (e.g., hearing music while walking). Particularly in the case of the response to auditory rhythms, neuroscientific research has indicated that motor resources are also recruited while perceiving an auditory rhythm (or regular pulse), suggesting a tight link between the auditory and motor systems in the human brain. However, the evolutionary origin of spontaneous responses to auditory rhythms is unclear. Here, we report that chimpanzees and humans show a similar distractor effect in perceiving isochronous rhythms during rhythmic movement. We used isochronous auditory rhythms as distractor stimuli during self-paced alternate tapping of two keys of an electronic keyboard by humans and chimpanzees. When the tempo was similar to their spontaneous motor tempo, tapping onset was influenced by intermittent entrainment to auditory rhythms. Although this effect itself is not an advanced rhythmic ability such as dancing or singing, our results suggest that, to some extent, the biological foundation for spontaneous responses to auditory rhythms was already deeply rooted in the common ancestor of chimpanzees and humans, 6 million years ago. This also suggests the possibility of a common attentional mechanism, as proposed by the dynamic attending theory, underlying the effect of perceiving external rhythms on motor movement.

Hattori Y, Tomonaga M, Matsuzawa T (2015) Distractor Effect of Auditory Rhythms on Self-Paced Tapping in Chimpanzees and Humans PLOS ONE 10(7): e0130682 , doi: 10.1371/journal.pone.0130682